コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第35回
2002年11月5日更新
映画ライターは好きな人にインタビューができると思っていている人がいるのだけれど、残念ながらぼくはそんな立場にない。憧れの俳優に取材をしようと、マネージャーやエージェントにかけあってみたところで、まともに取りあってもらえないはずだ。セレブが取材を受けるのは映画のプロモーション期間のみで、その際の媒体の選考も向こうが行う。こちらは選ばれる立場だから、選択の余地などなく、ただ取材要請がくるのを待つだけなのである。
96年あたりからライター業をスタートさせて、これまでいろんな人にインタビューさせてもらってきた。人気スターといえる人は、出演作が多くなるため、必然的にインタビューの回数も増えていく。キャメロン・ディアスとは5回、ニコラス・ケイジやブラッド・ピットとは3回、あと、スターじゃないけど、ぼくの個人的なアイドル、スティーブン・ソダーバーグ監督とは実に4度も顔を合わせている。
同じ人と何度も顔を合わせる一方で、ぜんぜん接触できない人もいる。とくにぼくは監督やカメラマンなど、裏方の人に興味があるのだけれど、ジャンケットで出会うのは、俳優が圧倒的に多く、それも、主役級の人よりも、日本では知名度が低い人が圧倒的に多い。取材対象を選べない状況にフラストレーションを覚えたこともあったのだが、今年はどういうわけか当たり年だった。
まず、デビッド・フィンチャー監督との単独インタビューにはじまって、スピルバーグ監督を「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の撮影現場で、ジョージ・ルーカス監督はスカイウォーカー・ランチで、デビッド・リンチ監督はリンチ邸で、ジョディ・フォスターとは電話でロングインタビューをさせてもらった。そのほかにも、ジョナサン・デミ監督やフランク・ダラボン監督、トム・ハンクスなど興味深い人から話を聞かせてもらうことができた。
つきまくっていた2002年もいよいよ終わりに近づいた10月、あのマーティン・スコセッシ監督に取材できることになった。ライター人生で間違いなく最大の大物、しかも、独占インタビューである。ニューヨークへ向かう飛行機のなかでは、興奮して一睡もできなかった。
取材場所となったのは、ブロードウェイのど真ん中にあるSound Oneというスタジオ。「ギャング・オブ・ニューヨーク」のADR(アフレコ)作業中のスコセッシ監督を直撃した。
噂以上に早口な人だった。タランティーノ監督も早かったが、タランティーノが「Cool」とか「You know what I mean?」など同じ言い回しを連発するのに比べ、スコセッシ先生は語彙が豊富で、話上手である。話はどんどん脱線していくのだが、最後にはきちっと質問の答を返してくる。まるで、メインストーリーからどんどん脇道に逸れていく、スコセッシ映画そのままの展開だった。
スコセッシ監督と過ごした30分間を、ぼくは一生忘れないだろう。ブラインドが壊れ、やたらと強い日差しが差し込む仮オフィスで、スコセッシ監督の言葉を一身に浴びたのだ。映画をこれほど情熱的に語る人に、ぼくは出会ったことがない。あれほど輝かしいキャリアを持ちながら、どん欲なまでの好奇心と向上心。インタビュー後のぼくは、確実になにかが変わっていた。「ギャング・オブ・ニューヨーク」が楽しみで仕方がない。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi