コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第29回
2002年5月2日更新
期待して映画を観るとがっかりすることが多いように、過剰な期待を抱いてインタビューに臨むと失敗することがある。たとえば、ぼくの場合、はじめてトビー・マグワイアにインタビューしたときがそうだった。「ワンダー・ボーイズ」や「サイダーハウス・ルール」など主演作が立て続けに公開されたころで、ぼくはその作品選びのセンスや、演じるキャラクターの印象から、勝手にトビー・マグワイア像を作っていた。一度語り合ったら、大親友になれるんじゃないかとすら思い込んでいた。でも、残念ながら、実物はぼくのイメージとは違っていて――別に、嫌なヤツとかそういうことではないんだけれど――、インタビューはどこまでいってもかみ合わず、大失敗に終わってしまった。
一方、先週フランク・ダラボン監督の取材をオファーされたとき、ぼくはたいして興味をそそられなかった。「ショーシャンクの空に」は大好きな映画だけれど、とくに監督に会いたいと思ったことはないし、最新作「マジェスティック」はまだ観ていなかった。なにより、ここ最近の取材ラッシュで――今年に入ってから、すでに30人ぐらいしている――、インタビュー自体にうんざりしていた。しかし、まるで期待していなかったこの取材こそが、一度は失ったインタビュー業へ興味を復活させるだけの素晴らしい体験になったのである。
インタビューはハリウッドにある彼のオフィスで行われた。古い家具や往年の映画のポスターに囲まれた職場は、まるで彼の作る映画のセットのようである。
ダラボン監督は、相手の言葉にきちんと耳を傾け、真剣に答えてくれる。ストックフレーズをただ繰り返すだけのタレントに慣れていたから、ぼくはこれだけで好感を持った。「あの頃ペニー・レインと」や「グッド・ウィル・ハンティング」、「L.A.コンフィデンシャル」など、映画の趣味がぼくと同じだとわかると、もう他人だという気がしなかった。
なによりぼくが惹かれたのは、ダラボンさんの温厚で、誠実な人柄だ。シニカルな人間だらけの映画業界で、彼のようなタイプは非常に珍しい。ダラボンさんの作る映画には、いつもポジティブなメッセージが込められている。それを古くさい、説教臭いと思う人もいるかもしれない。でも、彼に言わせれば、映画とは本来ハートがあって、メッセージがあるものなのだ。そんなダラボンさんの映画はアメリカでは必ずしも歓迎されていない。それでも、理性や良心がつまった映画を作り続けると力強く語った。
結局、思い出の映画の話題から、現在の世界情勢まで話は及び、予定の30分はあっという間に過ぎてしまった。結局10分もインタビュー時間を延長してくれて、最後には、「Wow, What a great conversation!!」と言って、がっちりと握手してくれた。もしかしたら、単なるリップサービスだったのかもしれないけれど、それが本気に見えたのがよかった。
ぼくはなんだかとても元気になった。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi