コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第26回

2002年2月1日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE
「ビューティフル・マインド」
「ビューティフル・マインド」

ぼくは今まで雑誌などに自分のアカデミー賞予想を発表したことがない。ロサンゼルスに住んでいるという地の利もあるし、仕事柄、アカデミー会員に直接話を聞く機会も多いので、どの映画に勢いがあるか、だいたいは把握しているつもりだ。実際、毎年ぼくの個人予想はけっこう当たっている。でも、それをこういう場で発表してしまうのは、ちょっと抵抗があるのだ。

これにはぼくの性格的な問題が関係している。たとえば学生のとき、ぼくは自分から手を挙げるようなことは絶対にしなかった。たとえどんなに自信があったとしても、首をすくめ、目線を下げ、先生と目を合わせないことに全神経を集中させた。正解して賞賛を浴びる可能性より、不正解を言って周囲に笑われる危険性のほうが、よっぽど恐ろしかったのだ。

「ロード・オブ・ザ・リング」
「ロード・オブ・ザ・リング」

でも、30代になってはじめての新年を迎え、いい加減こんな自分を変えなくちゃいけないと痛切に感じている。もっと自信を持って、オプティミスティックに生きていくべきなのだ。そういうことで、今年からはアカデミー賞の予想を発表することにしたのである。

なんだか長い前置きになってしまったが、今年のアカデミー賞は「ビューティフル・マインド」が圧勝すると思う。アカデミー会員好みの題材が嫌味なくらい揃っているし、作品のクオリティもびっくりするぐらい高い。作品賞、脚色賞(アキバ・ゴールズマン)、助演女優賞(ジェニファー・コネリー)、監督賞(ロン・ハワード監督)は取れると思う。さらに撮影賞や編集賞、オリジナル作曲賞の可能性もあり。唯一の不確定要素は、他のスタジオが「ビューティフル~」に対して、ネガティブキャンペーンを行った場合のこと。「ビューティフル~」は天才数学者が精神分裂病に悩まされながらもノーベル賞を受賞するという実話をもとにしているのだが、主人公にホモセクシュアルの疑惑があることと、主人公夫妻が一度離婚していることを映画版は割愛してある。もし、このアキレス腱がセンセーショナルにかき立てられることになれば、アカデミー賞は混迷を来す可能性がある。

画像3

もう1つの有力作「ロード・オブ・ザ・リング」のほうは、可能性は低いとぼくは見ている。3部作の第1作で物語は完結していないし、もし今回オスカーをあげてしまったら、これからもっと良くなるであろう第2作、第3作にも賞をあげなくてはいけないという事態になってしまうからだ。また、同作の配給を手がけるニューラインは、オスカーキャンペーンが決して得意とはいえない(たしか、まだ1つも受賞作を出していないはずだ)。ということで、主要賞では助演男優賞(イアン・マッケラン)ぐらいで、あとは、特殊効果やサウンドなどの技術賞のみになるのではないだろうか。

さて、向かうところ敵なし──のように思われる──の「ビューティフル~」だが、主演男優賞部門だけは疑問である。同作でラッセル・クロウは文句なしの名演技を披露しているけれど、あいにく彼は昨年「グラディエーター」でオスカーを受賞してしまっている。果たしてアカデミーがハリウッド一のバッドボーイに2年連続で主演男優賞あげるかどうか。が、デンゼル・ワシントンやジーン・ハックマンなどのライバルにインパクトがあるわけでもない。アカデミーが実力で判断すれば、ラッセル・クロウになるだろう。

例年アカデミー賞といえば、インディペンデントの雄ミラマックスの作品の活躍が目立つが、今年は「ギャング・オブ・ニューヨーク」の公開延期で、コマが少ない。家族ドラマ「In the Bedroom」で、シシー・スペイセクの主演女優賞、そして「アメリ」で外国語映画賞受賞を狙い、強力なプロモーション攻勢をかけるに違いない。

というわけで、ぼくの予想は以下の通りになる。

最優秀作品賞 「ビューティフル・マインド」

最優秀監督賞 ロン・ハワード(「ビューティフル・マインド」)

主演男優賞 ラッセル・クロウ(「ビューティフル・マインド」)

主演女優賞 シシー・スペイセク(「In The Bedroom」)

助演男優賞 イアン・マッケラン(「ロード・オブ・ザ・リング」)

助演女優賞 ジェニファー・コネリー(「ビューティフル・マインド」)

脚色賞 「ビューティフル・マインド」

オリジナル脚本賞 「メメント」

外国語映画賞 「アメリ」

さて、リストを見直したら、果たしてここまで「ビューティフル・マインド」が圧勝するのか、自信がなくなってきた。だいたい、賞レースというのは、ゴール寸前でさまざまなドラマが起こるものなのだ。なのに、2カ月も前に、しかもノミネートすら発表されていない時期に、予想をするなんてしょせん無茶な話である。

いや、言い訳はよそう。今年は勇気を持って生きていくのだ。せめて、あともうしばらくは。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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