コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第255回
2014年5月26日更新
第255回:クラウドファンディング革命の立役者、ザック・ブラフを直撃!
クラウドファンディングによる映画製作が注目されたのは、つい最近のことだ。カルト人気があったものの放送中止となった「ヴェロニカ・マーズ」の映画版がクラウドファンディングで実現したのをきっかけに、ジェームズ・フランコやスパイク・リーがそれぞれ長編映画の資金を集めることに成功。映画会社や投資家をすっとばして観客から直接資金を集める手法は、従来のやり方と比較してずっとスマートで革命的に映る。僕自身、彼らの活躍に感化されて、日本酒ドキュメンタリー「KAMPAI」の製作資金をクラウドファンディングで集めようと思ったほどだ。
先日、クラウドファンディング革命の立役者のひとりであるザック・ブラフに取材をする機会に恵まれた。彼は、「Scrubs~恋のお騒がせ病棟」というテレビドラマで長年主演を務めた人気俳優で、2004年にはインディペンデント映画「終わりで始まりの4日間」(原題:Garden State)で監督デビューを飾っている。
監督第2弾「Wish I Was Here」を映画化するにあたり、ブラフはクラウドファンディングで資金を募った。目標額200万ドルをたった48時間でクリアして、計310万ドルを手に入れたのである。
「Wish I Was Here」の主人公は、家庭を持ちながらも、いまだに売れない役者を続けているエイダン(ブラフ自身が演じている)だ。献身的な妻(ケイト・ハドソン)に生活費を稼がせ、父親に子どもの教育費を負担させているものの、父ががんになったことから、生活が一変。家族関係から信仰まで、あらゆることを再検討せざるを得なくなるというストーリーだ。
完成した映画を見た限りでは、欠点はあるものの、それなりの魅力を備えた典型的なインディペンデント映画だと思った。インディペンデント系スタジオなら簡単に実現させてくれそうな企画を、あえてクラウドファンディングで実現した心意気を僕は高く評価していたのだが、本人によれば他に選択肢はなかったという。
「誰もこの映画を作りたがらなかったんだ。誰にも信じてもらえないけれど、これが事実なんだよ」
主演と監督と共同脚本を務めたザック・ブラフによると、脚本を完成させたあとあらゆる会社に企画を持ち込んだのち、ようやくふたりの出資者に巡り会うことができた。しかし、キャスティングや編集権について難題をつきつけられた。映画実現のために妥協は仕方ないと諦めかけていたとき、「ヴェロニカ・マーズ」がクラウドファンディングで資金を集めたというニュースを耳にしたという。
ザック・ブラフによれば、クラウドファンディングが成功した最大の要因は、ソーシャルメディア上で影響力を持っていたためだという。ツイッターには140万人のフォロワーがいるため、プロジェクトの実現にはそれほど不安はなかったという。もっとも、たった2日で目標額に到達するとは思っていなかったらしいが。
この話を聞いて、背筋が冷たくなった。いい企画を投げかければ、きっと資金があつまると期待していたからだ。僕のソーシャルメディアでの影響力はあまりにも小さい。それなのに、「KAMPAI」の締め切りが直前に迫っているのだ(https://motion-gallery.net/projects/KAMPAI)。さて、どうなることやら。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi