コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第25回
2001年12月29日更新
映画業界にとって、今年ほど異常な年もなかったんじゃないだろうか。
上半期は俳優組合(SAG)と脚本家組合(WGA)のストライキ騒動に明け暮れた。ハリウッド中の人が仕事を失うという最悪のシナリオが杞憂に終わったかと思ったら、9月11日にテロが勃発。公開延期や製作中止など、各スタジオはいまでもトラブルシューティングに追われている。
これだけ災難に見舞われたにもかかわらず、ボックスオフィスで今年は史上最高の売り上げを記録したそうである。まあ、それはめでたいことだと思うけれど、今年の公開作のレベルの低さは目に余るものがあった。たいてい年末にもなれば、来年のアカデミー賞の有力候補が見えてくるものだ。しかし今回にいたってはいまだに不透明で、アカデミー会員もきっと悩んでいると思う。もしかして日本では、自社作品を「アカデミー賞最有力!」なんて書きたてている映画会社があるかもしれないけれど──きっと少なからずあるんだろうなあ──、だれもが口を揃えて「アカデミー賞確実!」と言えるような作品(たとえば「アメリカン・ビューティー」や「グラディエーター」級の映画)はどこにも見あたらない。ストライキ騒ぎで製作を急がされたせいもあって、今年はほんとうに不作だった。
映画ファンにとって救いだったのは、インディペンデント界は相変わらず好調だったことだ。たとえば、ぼくの今年のベスト3は、「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」、「バーバー」、「メメント」と、どれもインディペンデント映画だ。とくに異色ミュージカルの「ヘドウィグ~」は最高傑作だと思う。製作費は安いし、有名俳優も出ていないけど、愛とクリエイティビティに満ちていた。映画の可能性を再確認させてくれる作品だった。
過剰で大味になりすぎてしまったメジャー映画も、テロ事件をきっかけに変わっていく可能性がある。たとえば、ベトナム戦争がアメリカン・ニュー・シネマというムーブメントを起こしたように、だ。ロバート・レッドフォードはこう言っていた。「いま、ハリウッドは、岐路に立たされているんだ。いままでのように暴力をエンターテイメントに用いるのか、それとも、別のやり方を模索するか、という。いま、ハリウッドがそうして自問自答するようになったことはいいことだよ。この悲劇をきっかけに、なにかポジティヴなものが生まれる可能性はあると思う。もうすこし中身のある映画が増えて、多様性が生まれ、新しいフィルムメーカーが生まれるきっかけになればと思っているよ」
ぼくもその可能性を信じてみたい。2002年はいい年になりますように。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi