コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第241回

2013年10月23日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第241回:ウィキリークスの創始者、ジュリアン・アサンジ氏にスカイプ取材敢行!

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ふだんはハリウッド映画やアメリカドラマといった軽めの題材ばかりを取材している僕に、なんとジュリアン・アサンジ氏の取材をする機会が巡ってきた。アサンジ氏といえば機密情報を公開するウェブサイト、ウィキリークスの創始者であり、世界を揺るがすインターネット活動家である。

事情に詳しい人は、そもそもロサンゼルス在住の僕がどうやってアサンジ氏に取材できるのか疑問に思うかもしれない。なぜなら彼は、2012年6月にロンドンのエクアドル大使館に亡命申請をしたまま、イギリス政府による身柄拘束を恐れて、いまだに大使館内に留まっているからだ。

今回の取材は、僕が所属するハリウッド外国人記者クラブ(HFPA)の上層部が、辛抱強くアプローチして実現したものだ。長い説得の末、ようやくスカイプを通じての記者会見に合意したのだという。彼がこの時期に、エンタメ系ジャーナリストが集まる記者クラブへの取材を受けた背景には、ウィキリークスを題材にした「ザ・フィフス・エステート(原題)」というハリウッド映画の存在があると思う。アサンジ氏はこの作品をアメリカ政府主導のプロパガンダ映画とみなしており、ウィキリークスを通じて徹底的に非難している。ゴールデン・グローブ賞を選考するHFPA会員に「ザ・フィフス・エステート」の問題点を直接指摘しておくことは、ウィキリークスにとって有益であると考えたのだろうと想像する。

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スカイプによる記者会見は、ウェストハリウッドにあるHFPAの本部で行われた。僕がまず驚いたのは、容姿の変化だ。過去の写真ではいつもスーツを着て、精悍な顔つきをしているのに、モニター上に登場した彼は運動不足のせいか顔つきがふっくらとして、服装も青いパーカーというラフなものだ。「ザ・フィフス・エステート」でベネディクト・カンバーバッチが演じたキャラクターとはルックスがずいぶん違っている。しかし、いったん口を開くと、その独特の訛りや自信に満ちた態度は、カンバーバッチそのままで、妙な既視感を覚えた。

今回の記者会見を引き受けるまえに、HFPAのことを調査したと、アサンジ氏は言う。

「僕が調べたところによると、ハリウッド外国人記者クラブがゴールデン・グローブ賞を1943年に開始したのは、当時は国内しか相手にしていなかったアメリカの俳優や監督やプロデューサーにインセンティブを与えることで、外国メディアにも目を向けさせるためだったそうだね。つまり、スタジオのシステムをハックするために、映画賞を設けたわけだ。この話が事実ならば、称賛に値する。君たちが始めた反逆は、いまでも大成功を収めているからね」

その後は、「ザ・フィフス・エステート」に対する批判や、アメリカの監視国家ぶり、ロシアに逃亡した元CIA職員エドワード・スノーデン氏とウィキリークスとの連携などに話題が移った。いずれも簡単にまとめられる内容ではないのでまた別の機会に譲るとして、最後にひとつだけご紹介。毎日、大使館でどんな生活をしているんですか、という質問に、アサンジ氏は以下のように答えた。

「昼食は大使館の職員と一緒に食べるし、誰かの誕生日は一緒に祝うことにしている。正直なところ、500日間、同じ壁を見つめなくてはならないのは、心躍る経験ではない。でも、仕事は捗っている。それ以外にやることがないからね。僕をここに閉じ込めたのは、連中にとって失敗だったね。僕には有能で忠実なスタッフがいるし、世界にはたくさんの支持者がいる。体は塀のなかに閉じ込められているけれど、頭は外に出てスタッフと交流しており、それこそ僕にとって大事なことだ。いつか僕が外に出るとき、なかのほうがずっとマシだったと思うような世界にはしたくないからね」

ちなみに「ザ・フィフス・エステート」は米英で公開されたばかりだ。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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