コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第231回
2013年7月16日更新
第231回:J・Jの制作会社「バッド・ロボット」が送りだす新ドラマ「Believe」とは?
この時期になると、秋に始まる新シーズンに放送される新番組の内覧用DVDが送られてくる。新番組の大半はシーズン終了までに打ち切りになってしまうし、他にも見なきゃいけないものがたくさんあるので、自分のなかでの優先順位は決して高くないのだけれど、J・J・エイブラムスの新ドラマとなれば話は別だ。J・Jの制作会社バッド・ロボットは相変わらずドラマを精力的に手がけていて、この秋は、「フリンジ」を手がけたJ・H・ワイマンが企画・製作総指揮を務めるSF刑事ドラマ「Almost Human」と、アルフォンソ・キュアロン監督が企画・製作総指揮を手がける「Believe」という新ドラマが放送される。いずれもパイロット版と呼ばれる第1話を見たのだが、「Believe」が驚くほど素晴らしいのだ。
死刑執行の日、殺人犯のテイト(ジェイク・マクローリン)のもとに、神父の姿をしたウィンター(デルロイ・リンド)がやってくる。謎の組織で働くウィンターは、ある仕事を引き受けることを条件にテイトを脱獄させるのだ。
その仕事とは、ボーという10歳の孤児の身辺保護だ。特殊能力を持つボーは、その能力を悪用しようとする組織に幼いころから狙われており、ウィンター率いるチームが命を懸けて守ってきた。そんなウィンターは、どういうわけか、殺人犯のテイトに大役を任せようというのだ。
当然のごとくテイトは抵抗する。子どもは好きじゃないし、そもそも自分が適任者とは思えない。しかし、差し迫る危機をかいくぐるうちに、少女ボーとのあいだに不思議な繋がりを感じるようになる。かくして、脱獄囚と特殊能力を持つ少女は、二人で逃走を始めることになる、というのがだいたいの筋書きだ。
第1話となるパイロット版はキュアロン監督が演出を手がけていて、冒頭でいきなり「トゥモロー・ワールド」を彷彿とさせる長回しが導入されていて、テレビドラマとは思えないほど躍動感に満ちた映像で綴られていく。
同時にヒューマンドラマが丁寧に描かれていて、超能力少女ボーのキャラクター造形がとにかくいい。大人びていて、困っている人にお節介をせずにいられない性格で、自分の身に危機が迫っているときも、他人に手を差し伸べずにはいられない。そんな彼女が旅先で出会う人々との交流がストーリーの核にあり、そこにサスペンスとミステリーとアクションが加わって、独自のドラマを作り出している。J・J・エイブラムスが関わったドラマはどれも第1話が秀逸だけれど、「Believe」ほど深い感動を与えてくれたドラマは初めて。ジョナサン・ノーランと組んだ「パーソン・オブ・インタレスト」のときと同様、アルフォンソ・キュアロン監督という卓越した才能と組んだことが成功の秘訣だと思う。
現時点で「Believe」の日本放送は未定。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi