コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第227回
2013年6月7日更新
第227回:ソダーバーグが「Behind the Candelabra」で描くリベラーチェの恋
「Behind the Candelabra(原題)」は、スティーブン・ソダーバーグ監督が長期休養に入る前に撮った最後の作品だ。派手なステージ衣装と燭台(キャンデラブラ)がトレードマークのエンターテイナー、リベラーチェの伝記映画で、恋人だったスコット・ソーソンの回想録を下敷きにしている。
この企画に関しては、2008年にリベラーチェ役にマイケル・ダグラス、スコット役にはマット・デイモンというトップスターの出演が決まったにもかかわらず、これまで実現には至らなかった。その理由はスタジオが「ゲイすぎる」という理由で製作を拒んだため、資金繰りに苦労したためだ。このたび、米有料チャンネルHBO向けのテレビ映画として、ようやく完成にこぎ着けた。テレビ映画とはいえ、通常の映画と変わらない製作費がつぎ込まれているので、アメリカ国外では劇場公開されることになるという。
さて、スタジオが製作を拒んだほどの同性愛映画と聞いていたから、激しい性描写を覚悟して試写に臨んだのだが、実際にはマイルドな描写しかなく、風変わりなラブストーリーとしてまとめられていた。17歳のスコットは、知人を通じて人気エンターテイナーのリベラーチェと出会い、アシスタント兼ボーイフレンドとして雇われることになる。親のいないスコットと、子どもがほしかったリベラーチェは、5年間におよび親子とも恋人同士ともいえる不思議な関係を築くのだ。リベラーチェにダイエットや整形手術を強要されるなどの奇行も描かれているけれど、破天荒な暮らしぶりと、過ぎ去った日々の華やかな雰囲気があいまって、まるで泡風呂に浸かりながらシャンパンを飲んでいるような気分に浸ることができた。
個人的には、リベラーチェについて知ることができたのがうれしかった。この映画はスコット・ソーソンとの関係に絞っているので、キャリアの後期しか描かれない。それでも、ピアニストとしての卓越した技術と、ありあまるサービス精神を持ちあわせた類稀なパフォーマーだったことは分かる。マドンナやレディー・ガガ、あるいはエルトン・ジョンよりもずっと前に、こんなエンターテイナーがいた。それを教えてくれたことが、この映画の最大の収穫かもしれない。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi