コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第22回
2001年9月19日更新
ワールド・トレード・センターが瓦礫の山と化してから2日後、友人からこんなメールが転送されてきた。
「金曜日の夜7時半、車を運転している人は車を停めて、家にいる人は外に出てロウソクに火を灯してください。アメリカがテロに屈することなく、一丸となっていることを世界に見せてやりましょう」
もともとの送り主は、どうやらニューヨークに住む映画関係者らしい。このメールはあらゆる人を経由して、ロサンゼルスにいるぼくのもとへ届いたというわけだ。隣の部屋に住むビジネスマンのもとにも同じメールが届いていたというから、相当な広がりを見せていたに違いない。
「もちろん、おれもロウソクを灯すよ」とそのビジネスマンは言う。彼の友人は、ワールド・トレード・センターから2ブロック離れたオフィスで働いていたのだという。ジャンボ機がつっこんだあと、多くの人が高層ビルから飛び降りたために、オフィスのまわりには肉片が散乱していたという。
現場から3000マイルも離れていても、ロサンゼルスの人々は驚くほどこの事件を身近に感じている。ハイジャックされた飛行機のうち3機はロサンゼルス行きだったということで当事者も多いし、何よりも自分たちが普通だと思っていた生活が、いとも簡単にうち砕かれてしまったのだ。深い悲しみと静かな怒り。そして、マンハッタンで必死の救出作業をする消防隊員をテレビで見守ること以外、なにもできないという無力感。そんななか、「団結しよう」というメールが送られてきたのである。金曜日の夜、ぼくは繁華街を目指して車を出した。運転してすぐに、街中が星条旗で溢れていることに気づいた。庭先にもアパートのベランダにも、車のアンテナにさえも、星条旗がなびいている。普段は公共の建物でしか見られない星条旗が、フリーウェイの上の歩道橋にも、スターバックスのウインドーにも掲げられているのだ。すでに庭先でロウソクを灯す人もちらほらと見えた。親子が、まるで花火でもするように、一緒にロウソクを持っている。老人ホームの前では、お年寄りたちが火を灯しあっていた。
サンセット・ブルバードのバージン・メガストアのあたりには、すでに20人程度集まっていた。「NYC HEROES」と書いた横断幕のもとに、若者から子供、お年寄りまで、まるで接点のなさそうな人たちが、それぞれロウソクをかかげている。目の前を通り過ぎる車はクラクションを鳴らして、彼らを応援する。するとロウソクを持った人々は歓声をあげ、ピースサインで答えていく。ロウソクを手にする人の数はどんどん膨れ上がっていった。
彼らは得体の知れないメールを読んで、ここに集まってきた。「こんなことをして何になる」とは言わずに、とにかくロウソクを手に持って。これまでの日常生活で、彼らがここまで仲良くすることは決してなかったはずだ。彼らには年齢や性別、職業、信仰、価値観、バックグラウンドなど、ありとあらゆる違いがあるから。でも、今回の事件は、そうした相違点をすべて取るに足らないものに変えてしまった。彼らは文字通りUNITEしていた。それはとても美しいシーンだった。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi