コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第199回
2012年9月28日更新
第199回:エミー賞授賞式中継に見るSNS活用による視聴率アップ術
今年もプライムタイム・エミー賞の授賞式に参加させてもらった。常勝「MAD MEN」が敗れ、新ドラマ「HOMELAND」が4冠に輝く波乱があったが、それ以外は順当な結果に終わったといえると思う。
今回、僕くが最も感心したのは、授賞式中に行われたある社会実験だ。司会者のジミー・キメルは、会場の座席に座っていたコメディアンのトレイシー・モーガンを舞台にあげると、横たわるように指示。そして生放送中、視聴者にこう呼びかけたのだ。「OMG(オー・マイ・ゴッドの略)! エミー賞でトレイシー・モーガンが気絶した!」とソーシャルメディアに書き込むように要請したのである。FacebookやTwitterなどでウソのニュースを拡散させることで、授賞式中継の視聴率を上げようという計画で、実験台となったモーガンは、それから10分ほどの間ずっと仰向けのまま横たわっていた。その間も各賞の発表が行われており、喜びのスピーチをする受賞者のすぐ横に、タキシード姿で寝そべる黒人コメディアンがいる構図は、なかなかシュールだった。
会場にいたときは、単なるジョークの一種だと思っていたけれど、翌朝、この実験がものすごい結果を生み出していたことがわかった。ロサンゼルス・タイムズ紙によると、この実験が始まると、Twitterではエミー賞に関するツイートが毎分1万7000ツイートに急増。合計100万ツイートになったという。
今年、最高ツイート数を記録したグラミー賞授賞式(1300万)やMTVビデオミュージックアワード(1280万ツイート)と比較すればたいしたことはないが、エミー賞は視聴者の年齢層が高いというハンデがある。ソーシャルメディアを駆使したおかげで、今年の視聴者数は前年比6%アップの1320万人に達したという。
スマートフォンやタブレットの普及により、アメリカではソーシャルサイトを利用しながらテレビ視聴する人が急増している。全体の6割を超えるという調査結果もあるほどだ。今回のエミー賞授賞式中継のように、視聴率アップのためにソーシャルメディアを利用するケースが今後は急増することになりそうだ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi