コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第174回
2012年3月21日更新
第174回:再び動き出した人気ドラマ、「マッドメン」復活!
「マッドメン」が17カ月ぶりに全米放送を再開する。4年連続でエミー賞を受賞し、名実ともに今のテレビドラマの最高峰にある作品が製作中断という事態に陥ったのは、皮肉なことに「マッドメン」が関係者の予想を超えた成功を収めたためだ。シーズン4の終了後、企画・製作総指揮のマシュー・ワイナーは、米放送局のAMCと製作会社ライオンズゲートとの契約更改交渉で、さまざまな条件をつきつけられた。なかでも、ワイナーが猛烈に反対したのは、以下の3点だったという。
・番組に特定の商品を登場させるプロダクト・プレイスメントの導入(広告収入が得られるため)
・ドラマの尺を2分短縮(CMを増やすことができるため)
・登場人物を数名カット(製作費削減のため)
つまり、「マッドメン」を絶好の商機ととらえた制作側が、利益を最大化すべくさまざまな条件を盛り込んできたのである。AMCとライオンズゲートの両社はヒットドラマと縁がなかったために、浮き足だってしまったという事情もある。
しかし、ワイナーがあらゆる妥協を拒絶したため、交渉は膠着状態に陥ってしまう。ワイナーは降板まで覚悟したそうだが、製作サイドはワイナー抜きで「マッドメン」を継続できないと悟り――なにしろ、彼がこのドラマを生み出し、キャスティングから演出まですべての面で指揮をとってきたのだ――妥協案を提示。ワイナーも自らの契約期間を2年ではなく、3年に延長するという妥協を受け入れ、ようやく制作が再スタートすることになった。なお、今のところ「マッドメン」はシーズン7でフィナーレを迎えることになっている。
ようやく放送再開にこぎ着けたわけだが、全米放送が始まったばかりのシーズン5を見る限り、舞台裏のトラブルをまったく感じさせない、風格すら感じさせる堂々たる仕上がりだ。これまでの各シーズンの立ち上がりと同様、シーズン5の出だしも大きなイベントはなく、ゆったりとした展開になっている。前シーズンの最終話から時間が経過しているため、視聴者が新たな状況を把握できるように、ペースをゆったりにしてあるのだ。また、「マッドメン」にはシーズンごとに大きなストーリーラインがあって、前半にはたくさんの伏線が張られているという事情もある。「マッドメン」を数話見ただけで視聴を止めてしまった人もいるかもしれないけれど――僕も最初はそうだった――、後半でたたみかけるストーリー展開はぜひとも体験してほしいと思う。
個人的には、「マッドメン」は個性豊かなキャラクターたちが、激動の60年代のなかで、それぞれの幸せを追求していくヒューマンドラマだと思っている。残りの3シーズンをじっくりと見届けたいと思う。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi