コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第164回
2011年12月21日更新
第164回:「ドラゴン・タトゥーの女」、ルーニー・マーラが魅せるリスベットの純粋さ
原作を読んだ人ならば、スティーグ・ラーソンの「ミレニアム」シリーズの最大の魅力がリスベット・サランデルのキャラクター像にあると同意してくれるんじゃないかと思う。体中にピアスとタトゥーを入れたパンク風の彼女は、調査員として異常なほどの情報収集能力を持っているものの、社交性がまるでなく感情表現が苦手だ。トラブルに巻き込まれている彼女がミカエルという型破りのジャーナリストと出会い、一緒に仕事をすることで、彼女を取り巻く状況は少しずつ改善していく。3部作はそれぞれ別の事件が描かれているものの、リスベットの成長を描いたサーガとしても見ることも出来るのだ。
ご存じの通り「ミレニアム」シリーズはすでに映画化されているが、正直なところ僕はノオミ・ラパスのリスベット像にピンとこなかった。個性があるし、演技も素晴らしいのだけれど、僕が原作を読んでイメージしたリスベットよりも、タフでエキセントリックな部分が突出してしまった印象だった。もっともラパスはこのシリーズでの演技が評価されてハリウッドに招聘されたわけだから、もしかすると僕の感じ方がおかしいのかもしれない。
ただ、ようやく完成したデビッド・フィンチャー版「ドラゴン・タトゥーの女」でルーニー・マーラが演じたリスベットは、僕にとって完璧だった。か細い体とハードな外見とのギャップがいいし、なによりときおり見せる純粋さがいい。さすが、並みいる有名女優たちを押しのけてこの難役を勝ち取っただけある。
この映画のオーディションを受けることになってから、「ミレニアム」シリーズを読んで、たちまち夢中になったというマーラだが、リスベットが世界中でどうしてこれほど愛されているのかわからなかったと言う。
「だって、もしもこんな女の子が街を歩いていても、誰も気に止めないし、関わろうとなんて思わないもの」
でも、「ドラゴン・タトゥーの女」に出演をしているうちに、仮説を思いついたという。
「みんな人生のある時点で、爪弾きされたり、誤解されたり、あるいは力のある人間に自由を奪われたことがあるんじゃないかな。だから、みんなリスベットに共感して、応援したくなるんだと思う」
マーラの演技は公開前から話題となり、すでにテレンス・マリック監督やキャスリン・ビグロー監督などの新作への出演を決めている。でも、個人的にもっとも期待しているのは、やはり彼女が演じるリスベットだ。早くも続編が楽しみだ。
「ドラゴン・タトゥーの女」は、2012年2月10日から全国で公開。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi