コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第155回
2011年10月14日更新
第155回:「Dolphin Tale」にみる実話映画化の秘訣とは?
こう感じるのは僕だけかもしれないけれど、実話をもとにした映画を見るとき、ストレスを覚えることがある。実際に起きた出来事を忠実に再現しているのはわかるのだけれど、たまにクライマックスなどで、「もっと盛り上げたらいいのに!」と思ってしまうのだ。こうした作品は実話の重みという強力な武器を抱えている一方で、クリエイティビティが制限されすぎるきらいがあると思う。ドキュメンタリーや再現ドラマじゃないんだから、エッセンスさえきちんと抽出していれば、いくらでも自由に脚色していいんじゃないかというのが僕のスタンスなのだ。
全米で大ヒット中のファミリー映画「Dolphin Tale」に感心したのは、まさに僕の理想とするバランスで実話が映画化されたからだ。
「Dolphin Tale」の下敷きとなったイベントを簡単にまとめると、以下のようになる。
2005年冬、フロリダでカニ漁の縄にひっかかった生後3カ月のイルカが発見された。海洋生物の救助やリハビリを専門とするクリアウォーター海洋水族館のスタッフが必死で治療に当たるものの、尾びれは手の施しようのない状態で、切断するしかなかった。生存の見込みはないと思われていたものの、イルカは強靱(きょうじん)な生命力で回復を果たす。ただし、ヘビのように左右にくねくねとねじる泳ぎ方では、いずれ脊柱を損傷するリスクがあった。かくして、義肢の専門家にイルカ用の人口尾びれの開発を依頼。長い試行錯誤のうえ、ようやく完成した。ウィンターと名付けられたイルカは、いまでは人々に勇気を与える存在として海洋水族館の人気者となっている――。
以上が実際に起きた出来事だ。いい話だけれど、スケール感には乏しい。そのまま映画化しても全米NO.1の大ヒットにはならなかっただろう。
プロデューサー陣は賢明にも、少年と野生動物という、動物映画の王道パターンをこの原作に当てはめた。少年が傷ついた野生動物に遭遇し、治療を経て友情を育み、やがては自然に帰すというよくある展開だが――SF映画の「E.T.」もこのパターンだ――、主人公を少年にしたことで、より多くの観客が共感できる物語になった。
さらに、海洋水族館が経営困難にあり、廃館の危機にさらされているという設定が加えられたことで、時間との戦いというスリルが生まれている。
実際には、イルカの救出劇にはいかなる少年も関与していないし、水族館の経営も非営利組織だからそれなりに苦労はあるだろうが、映画で描かれるほどひどくはないはずだ。でも、そうした虚構部分があるおかげで、傷ついたイルカと彼女(メスなのだ)を支える人々の物語が、数倍も感動的に仕上がったと思う。
こうした脚色に抵抗がある人がいるかもしれないけれど、クリアウォーター海洋水族館で撮影され、ウィンターが本人役で登場しているのだから文句はないだろう。エンドクレジットでは、2005年のウィンター救出時に録画された記録映像が披露される仕掛けにもなっている。
泣かせる映画に子供と動物は欠かせないが、僕自身ホロリときてしまった。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi