コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第152回
2011年9月21日更新
第152回:第63回エミー賞の結果はいかに?
米放送界においてもっとも権威のある賞として知られるエミー賞授賞式に、今年も観客として出席させてもらうことができた。第63回となる今回、僕は「マッドメン」が4連覇を達成するかどうかに注目していた。60年代の広告業界を舞台にした「マッドメン」は放送開始当初から批評家の絶賛を浴びて、エミー賞作品賞を3年連続で受賞している。視聴率では「NCIS~ネイビー犯罪捜査班」や「glee/グリー」といった人気番組には遠く及ばないけれど、批評家の評価の高さでは他を圧倒している。個性豊かなキャラクターたちが繰り広げる重厚なドラマはもちろん、虚構の物語のなかに歴史的事件が織り込まれているのが魅力だ。
ただ、ムードたっぷりにゆったり展開するので、スピーディーなドラマに慣れた視聴者には取っつきにくい。僕自身、最初の数話で挫けそうになったほどだけれど、自転車のギアを調節するように、心構えを切り替えられるようになったら、その芳醇な物語世界を堪能できるようになった。今回の審査対象となるシーズン4も相変わらず素晴らしい仕上がりで、とくに第7話「The Suitcase」は、「マッドメン」史上最高のエピソードだと思っている。
では、「マッドメン」が絶対優位かというと、そうとも言い切れない。今年フィナーレを迎えた青春ドラマ「Friday Night Lights」の評判はすこぶる良いし、米有料チャンネルHBOの新ドラマ「ボードウォーク・エンパイア」と「Game of Thrones」も強敵だ。「ボードウォーク・エンパイア」は禁酒法時代のアトランティック・シティを描くギャングモノで、パイロット版の演出を巨匠マーティン・スコセッシ監督が手がけている。「Game of Thrones」はSFファンタジー作家ジョージ・R・R・マーティンの「七王国の王座」のテレビドラマ化で、「ボードウォーク・エンパイア」とともに、「マッドメン」のスケールをはるかに勝っている。
結果としては、「マッドメン」が圧巻の4連覇を達成。しかし、「ボードウォーク・エンパイア」は監督賞(マーティン・スコセッシ)、「Game of Thrones」も助演男優賞(ピーター・ディンクレイジ)、「Friday Night Lights」に至っては脚本賞と主演男優賞(カイル・チャンドラー)と、賞を分け合う結果となった。あらためてアメリカドラマの豊作ぶりを実感させられた次第だ。
さらに、今年9月から一斉に新ドラマがスタートする。個人的には、J・J・エイブラムスの新ドラマ「Person of Interest」が気にいっているので、近いうちにきちんとご紹介したいと思う。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi