コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第11回
2000年11月1日更新
「チャーリーズ・エンジェル」のテレビ取材の日、フォーシーズンズ・ホテルのホスピタリティ・ルームは騒然としていた。大幅なスケジュールの遅れから、部屋はレポーターで溢れかえり、携帯電話で帰りの飛行機を変更している人や、関係者に詰め寄っている人、床にじかに座って腹ごしらえをしている人までいた。ぼくのインタビュー時間は5時45分の予定で、その30分前にチェックインしたけれど、予定通りにいくはずがなかった。映画会社の人もほとほと疲れ果てたという感じで、「いつになりそう?」と聞いても、返事がわりに目をぐるぐると回すだけだった。
スケジュールが遅れた原因は誰もわからなかった。主演の3人娘のうちの誰かが遅刻したのかもしれないし、衣装選びで時間がかかったのかもしれない。ただ、あとで監督に聞いたところによれば、撮影中もずっとこんな感じだったらしい。監督が現場でスタンバイしていても、肝心の3人娘が現れず、とにかく辛抱して待ちつづけなくてはいけなかった、と。さらに3人の中で一番気が強いと言われるルーシー・リューは、共演者のビル・マーレイと激しいケンカを繰り広げたもんだから、監督はたまったものではなかっただろう。今回のLAジャンケットのスケジュールが二転三転したのも、彼女のわがままが原因じゃないかというまことしやかな噂が流れていたぐらいだ。
7時20分になって、やっと3人娘とのインタビューとなった。おそるおそる部屋に入ると、意外にも「コンニチワ。ドウゾヨロシク」と明るく迎えられた。ドリューが一番元気で(日本語を話したのも彼女だ)、キャメロンはげっそりしていて(イタリアからの旅の疲れだろう)、ルーシーはなぜか監督の膝の上に座って、慰められていた。拗ねた理由は、他の2人にばかり質問が集中したせいらしい。
ぼくはルーシーに気を使って平等に質問していったのだけれど、番組が用意した質問の中に、ちょっと意地悪なものがあった──「この中で一番文句の多い人は誰?」
そう聞いたとたん、ドリューとキャメロンはルーシーを指さした。当のルーシーは、「今日わたしが話題の中心になることなんてなかったから、選ばれて光栄だわ。それがたとえ何であっても」と言い返し、あせった監督は「いやいや、ルーシーは自分の好みがはっきりしているだけなんだよ」とフォローを入れた。いやいや、監督もたいへんである。
翌日の記者会見も、やはり1時間遅れてスタートした。同時に現れた3人はいかにお互いが不可欠であるか、どれほど強い絆で結ばれているかを徹底的にアピール。ルーシーを真ん中に座らせて、ほかの2人が彼女の髪を同時に撫でるパフォーマンスまで見せた。
でも仲の良さを力説されるほどに、勘ぐりたくなってしまう。だいたい、仲が悪くたって全然構わないじゃないか。「コップランド」「17歳のカルテ」のジェームズ・マンゴールド監督は、「女の子同士が仲良くならなければいけないと思いこむのは差別だよ」と言っていたけれど、ぼくはそれに同意見だ。「17歳のカルテ」で、ウィノナ・ライダーはアンジェリーナ・ジョリーを毛嫌いしていたけれど、そんなのは作品のクオリティには無関係の話だと思う。そもそも「チャーリーズ・エンジェル」は、オリジナルの3人が不仲だったのだ。パートナーを公然と「ビッチ!」と罵倒するぐらいが、正しい後継者のあり方だと思うのだが。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi