コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第106回
2008年10月1日更新
第106回:作品賞受賞作の視聴者はごくわずか。今年のエミー賞は…?
ドラマ・シリーズ部門の作品賞を受賞した「Mad Men」をはじめ、主演男優賞(ブライアン・クランストン)を受賞した「Breaking Bad」、助演女優賞(ダイアン・ウィースト)を受賞した「In Treatment」と、今年のエミー賞は日本の海外ドラマファンにとっては馴染みのないドラマばかりが受賞した。
この受賞結果は、実はアメリカの一般視聴者にとってもぴんとこないものだ。なにしろ、「Mad Men」(シーズン1)の全米平均視聴者数はわずか91万人。同じく作品賞にノミネートされた「Dr. HOUSE」(シーズン4)は1620万人、「LOST」(シーズン4)は1319万人であることを考慮すれば、「Mad Men」の視聴者はごくわずかしかいない。実際、これまでにエミー賞作品賞を受賞した番組のなかで最低の視聴者数だという。
もちろん、番組の質と視聴率は無関係だ。07~08年のTVシーズンにおいて、「Mad Men」ほど批評家の賞賛を浴びた番組は他にない。アメリカでは数年前からFXやTNTといったベーシックケーブル局(無料視聴できるケーブル専門局)が積極的にオリジナルドラマ製作に乗り出しており、同じくベーシックケーブルのAMCが放った「Mad Men」は、ドラマ文化の深化の象徴として取り上げられていた。
業界内の人気投票的な側面があったエミー賞が、どうして今年になっていきなり批評家的視点で選択するようになったのか分からないが、お堅いテレビ批評家も納得の結果になったのではないかと思う。
エミー賞授賞式は日本でも放送されるので(ダイジェスト版が10月5日、ノーカット版が11月7日にそれぞれ海外ドラマ専門チェンネル「AXN」で独占放送)、アメリカの最新TV事情を知りたい人には、ぜひお勧めしたい。
蛇足になるが、「Mad Men」が日本で人気ドラマになることはない、と思う。「24」や「プリズン・ブレイク」を例に出すまでもなく、ヒットするドラマというのは、そのコンセプトなり魅力なりをひと言に換言できる。しかし、「Mad Men」では――少なくともぼくの文章力では――それが不可能だ。とりあえず「アメリカの60年代を舞台に、広告業界で働く男たちの仕事と家庭における葛藤を描くドラマ」と一文にまとめてみたが、これじゃあ、誰も見たいと思わないですよね。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi