コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第78回

2025年3月3日更新

編集長コラム 映画って何だ?

第97回アカデミー賞は「エミリア・ペレス」がキャンセルされ「ANORA アノーラ」が棚ぼたの5冠。AIの予想は当たった?

作品賞を獲得したのは「ANORA アノーラ」
作品賞を獲得したのは「ANORA アノーラ」

2025年3月3日(日本時間)、第97回アカデミー賞授賞式が行われました。今年のテレビ生中継は、WOWOWからNHK-BSにバトンタッチ。午前8時からおよそ5時間にわたって放映されました。

今年のオスカーレースは、過去に例を見ない、非常に今どきな展開が最後に待っていました。それは、大本命の「エミリア・ペレス」が、主演俳優のSNSでの炎上によってレースの先頭から転げ落ち、二番手候補だった「ANORA アノーラ」が棚ぼた式に5冠を手にするという結果になったことです。

ノミネート上位作品の、ノミネート数と実際の受賞数をリストアップしてみましょう。

エミリア・ペレス」……13ノミネート、2受賞

ブルータリスト」……10ノミネート、3受賞

ウィキッド ふたりの魔女」……10ノミネート、2受賞

名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN」……8ノミネート、0受賞

教皇選挙」……8ノミネート、1受賞

ANORA アノーラ」……6ノミネート、5受賞

デューン 砂の惑星 PART2」……5ノミネート、2受賞

「ANORA アノーラ」ショーン・ベイカー監督
「ANORA アノーラ」ショーン・ベイカー監督
主演女優賞を受賞した「ANORA アノーラ」のマイキー・マディソン
主演女優賞を受賞した「ANORA アノーラ」のマイキー・マディソン

オスカーのノミネート発表は1月23日(現地時間)で、「エミリア・ペレス」の主演俳優でトランスジェンダー女優のカルラ・ソフィア・ガスコンのSNSが炎上したのは、その翌週1月28日あたりの出来事です。2024年5月のカンヌ映画祭から賞レースのトップ集団につけ、2025年1月5日のゴールデングローブ賞でも作品賞(コメディ/ミュージカル部門)を受賞し、オスカーに向かって先頭を快走しながら、最後の1カ月で、つまり第4コーナーを回ってゴール目前まできて騎手が落馬したような印象です。

こんなことってあるんですね。主演俳優が炎上したことにより、作品そのものがキャンセルされてしまった事例として、とても興味深いです。助演女優賞(ゾーイ・サルダナ)と、主題歌賞の2部門でオスカーを獲得できたのは同作品にとって不幸中の幸いですが、この2部門は、主演俳優からの精神的な距離が比較的遠いからという投票者の忖度があったからでしょう。

助演女優賞を受賞した「エミリア・ペレス」のゾーイ・サルダナ
助演女優賞を受賞した「エミリア・ペレス」のゾーイ・サルダナ

いずれにせよ、若干の後味の悪さを伴う結末であったことは間違いありません。一方で、この機に乗じて棚ぼた的に5部門を受賞した「ANORA アノーラ」は、単なるラッキーというわけでは決してなくて、ゴールデングローブ賞でもきっちり5部門でノミネートを受けていたので、対抗馬あるいはNo.2としてのポジションをしっかり確保していたからこその栄冠だと思います。

ところで、授賞式が始まる直前に、AIにこの授賞式の結果を予想してもらいました。

「2025年のアカデミー賞では、どの作品/俳優が受賞すると思いますか?」

ChatGPTによる回答;

作品賞
最有力候補はショーン・ベイカー監督の『アノーラ』です。対抗馬としては、エドワード・バーガー監督のバチカンスリラー『教皇選挙』が挙げられます。

監督賞
アノーラ』のショーン・ベイカー監督が最有力とされています。ブラディ・コーベット監督の『ブルータリスト』も高い評価を受けており、競争が予想されます

主演男優賞
当初は『ブルータリスト』のエイドリアン・ブロディが有力視されていましたが、最近の予想では『名もなき者』でボブ・ディランを演じたティモシー・シャラメが受賞する可能性が高まっています。しかし、エイドリアン・ブロディの演技も依然として高く評価されています。

主演女優賞
サブスタンス』で永遠の若さを求める女優を演じたデミ・ムーアが最有力候補とされています。また、『アノーラ』のマイキー・マディソンも注目されており、受賞の行方が注目されています

助演男優賞
リアル・ペイン』のキーラン・カルキンが最有力とされています。 また、『アノーラ』のユーリィ・ボリソフも有力な候補として挙げられています。

助演女優賞
エミリア・ペレス』での演技が評価されているゾーイ・サルダナが有力視されています

長編アニメ映画賞
ラトビアのアニメーション作品『Flow』が最有力とされています。この作品は独自の感性と技術で高い評価を受けています。

以上です。ほんと驚きますよね。主要部門、ほぼ的中させていますよ。まあ、それほど今年の結果は予想通りだったということかも。

画像5

ちなみに、Chat GPTのほかにもいくつか質問してみましたが、Gemini、Claude3.7は、2024年の結果を示しつつ、今年のオスカーの予想はナシ。DeepSeekは「デューン 砂の惑星PART2」が本命で、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」が対抗というちょっと残念なアンサー。年度がまたがっちゃった。チャイナ製のAIは、オスカーレースには興味がないのかも知れません。いずれにせよ、ハリウッド作品についてのリサーチは、ChatGPT一択だということが分かりました。

筆者紹介

駒井尚文のコラム

駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。

Twitter:@komainaofumi

映画ニュースアクセスランキング

本日

  1. 「世にも奇妙な物語」幻の人気過去作を放送へ タモリの印象に残っている作品は「ズンドコベロンチョ」【35周年SP】

    1

    「世にも奇妙な物語」幻の人気過去作を放送へ タモリの印象に残っている作品は「ズンドコベロンチョ」【35周年SP】

    2025年5月16日 05:30
  2. 豪華客船内コロナ対応に向かう医療チーム、細部までこだわりの小栗旬主演「フロントライン」メイキング写真&特別映像

    2

    豪華客船内コロナ対応に向かう医療チーム、細部までこだわりの小栗旬主演「フロントライン」メイキング写真&特別映像

    2025年5月16日 13:00
  3. 【「かくかくしかじか」本日公開】連載終了から10年…なぜいま実写映画化?“映画のためだけに”書かれたシーンも存在

    3

    【「かくかくしかじか」本日公開】連載終了から10年…なぜいま実写映画化?“映画のためだけに”書かれたシーンも存在

    2025年5月16日 07:00
  4. 【来日インタビュー】サイモン・ペッグ、「ミッション:インポッシブル」最新作は「シリーズで最もお気に入り」 好きなガジェットも語る

    4

    【来日インタビュー】サイモン・ペッグ、「ミッション:インポッシブル」最新作は「シリーズで最もお気に入り」 好きなガジェットも語る

    2025年5月16日 19:00
  5. 自己肯定感が低いオタク女子が歌舞伎町で新たな世界の扉を開く 金原ひとみ「ミーツ・ザ・ワールド」松居大悟監督、杉咲花の主演で映画化

    5

    自己肯定感が低いオタク女子が歌舞伎町で新たな世界の扉を開く 金原ひとみ「ミーツ・ザ・ワールド」松居大悟監督、杉咲花の主演で映画化

    2025年5月16日 07:00

今週