コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第7回
2019年1月31日更新
「こんまりメソッド」がNetflixで大変なことに
1月のある週末、サンドラ・ブロックの「バード・ボックス」を見ようと自宅でNetflixにログインしたところ、私が「イチオシ!」されたのは、「KonMari 人生がときめく片づけの魔法」でした。
ビックリです。こんまり、いつの間にかNetflixのコンテンツになってたんですね。
私の自宅の部屋は、だいぶ片付いている方だと思います。家具も少なくて、本棚もありません。そうなったのは、10年前にこの本を読んだことがきっかけです。
「新・片づけ術 断捨離」(やましたひでこ著・マガジンハウス刊)。モノを「断」ち、ガラクタを「捨」てれば、執着も「離」れていく。ヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」をもとに生まれた言葉だそうです。
この本は売れました。折からのミニマリストムーブメントも追い風に、断捨離を実践する人「断捨離アン」もたくさん生まれた。お片づけブームの始まりです。
そして一年後、サンマーク出版が近藤麻理恵(こんまり)の「人生がときめく片付けの魔法」を出版します。これは新鮮というか、潔いプレゼンテーションでした。ややもすれば説教臭い「断捨離」に対して、「ときめき」という何のひねりもないキラキラワード。後に「こんまりメソッド」として普及していくその片付けの方法論も、極めてシンプルです。
例えば、洋服を整理するやり方。まず、ワードローブにあるすべての洋服を1カ所に集めます。
ひとつずつ手に取って、「ときめきを感じる」洋服は残し、「ときめきを感じなかった」洋服は捨てる。ただし、捨てる際には「感謝の気持ち」を忘れずに。
とってもシンプルです。シンプルすぎて、「こんなものが書籍として成立するのか」と思った記憶があります。
しかし、この本は売れました。「断捨離」よりも売れました。しかも驚いたことに、海外でもバカ売れしています。
2017年3月のこと、私はテキサスで「サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)」に参加したのですが、そこで、こんまりのセッションが行われているのを目撃し、とても驚いたことを覚えています。
「こんまり、いつの間にアメリカに進出してたのよ?」
Amazonで調べてみると、「The Life-Changing Magic of Tidying Up」と題された英語版には「#1 New York Times Best Seller」「9 Million Copies Sold」というステッカーが貼ってあります。なんと、900万部も売れていました。
北米で、本の著者として成功した日本人って、過去に村上春樹ぐらいだと思います。そしていま、「Konmari」はNetflixで大ブレイクしている。
1話目をちょっと見ていきましょう。アメリカの家に、片づけのために訪れたこんまりは、巫女さんのように見えます。床にひざまづいて「まず、お家に挨拶をします」と言って目を閉じる。その姿を、不思議そうに見守るアメリカ人夫婦。
山のように積まれた洋服を1着づつ手に取り、「Spark Joyを感じる」「感じない」とより分けて行きます。「ときめき」は「Spark Joy」と訳されていました。
1話はおよそ45分ですが、洋服、キッチン、子ども部屋、ガレージという具合に、順次「Spark Joyによる片づけ」が行われ、終わりの方で「ビフォーアフター」が示されると、その家の住人同様、視聴者にも大きなカタルシスがもたらされるという構成です。
インスタグラマーの皆さんは、試しに「#konmari」と検索してみてください。20万件以上の、キレイに整理整頓された棚やキッチンの写真が現れます。
お片づけブームはアメリカまで伝播し、ひとりの日本人スターを生んでいました。「こんまりメソッド」は簡単なので、部屋が片づけられないで困っている人は、ぜひNetflixでこのシリーズをご覧になることをオススメします。全8話ありますが、2~3話見とけばオッケーかと。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi