コラム:編集長コラム 映画は当たってナンボ - 第4回
2008年7月4日更新
第4回:「花より男子」大爆発!ドラマの映画化は、視聴者4人に1人が観賞?
前売り券が24万枚(東宝の実写映画史上最高枚数)売れたとか、武道館の試写会には25万通の応募があったとか、公開前から数字に裏付けられた数々のエピソードはあったものの、いざ公開されてみると「花より男子ファイナル」の勢いは、我々の予測を遙かに超えていた。6月28日の公開初日、そして翌29日と2日間の成績は、動員80万5350人、興収10億0579万8910円。何と2日間で400スクリーンから10億円を絞り取ったのである。
巷間では、「花男」と同じTBS製作の「世界の中心で、愛をさけぶ」(興収85億円)対比で160%の出足であり、興収100億円も狙えるとの観測が伝えられているが、これはやや見当違いだろう。比較の対象が適切とは言えない。
そこでまずは、前週の「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」のオープニング(先行上映を含まない)と対比してみよう。「インディ・ジョーンズ」の成績は、公開日と翌日の土日2日間で興収8億0642万7400円だから、「花男」はこれの125%の出足ということになる。しかも、スクリーン数は「インディ・ジョーンズ」の789に対し、「花男」は400。つまり「インディ」の半分程度のスクリーン数で、「インディ」の125%の成績を叩き出しており、今年公開された作品の中では一番のオープニング記録である。
そして、「花男」の興行を予測する上で、比較対象としてもっとも適当なのは、TVドラマで高視聴率をマークしていた点、TV局が幹事となり東宝が配給を行ったという点から、昨年9月の「HERO」(フジテレビ他)になるだろう。こちらは公開2日間で動員74万9807人、興収10億947万3875円というオープニング成績を記録しており、「花男」の成績とかなり符合する。「HERO」は最終的に81.5億円稼いでいるため、「花男」もこれに近い成績、即ち興収80億円あたりが見込まれるわけだ。無論「インディ・ジョーンズ」を蹴散らして、夏休みの2番手となる公算も非常に高い(先週の「インディ」=銀メダル予測は早くも撤回)。
結局のところ「花男」の大ヒットは、今日、映画のヒット作はTV局が作っているという事実をまたしても裏付ける出来事となった。「花男」にしても「HERO」にしても、視聴率20%以上をコンスタントにマークしていた人気ドラマ。TVの視聴率1%は100万人と言われているから、毎週2000万人以上が番組を見ていたことになる。仮に、そのうちのおよそ4人に1人、500万人が映画版を見るとするなら、500万人×1500円(入場料)=75億円の興行収入が上げられるという見積となる。観客のほとんどが女性なので、レディースデイなどの割引を使って見る人が多いことを考慮し、入場料単価を1300円まで下げたとしても65億円。
もちろん、こうした単純な数字のシミュレーションだけですべては語れないが、少なくとも、人気ドラマを映画化した場合の興行のポテンシャルは見えてくる。
ちなみに、5月に公開されて大ヒットした「相棒」にしても、平均視聴率はおよそ15%。1500万人の4人に1人、375万人が見るとするなら単価1500円の場合56億2500万円。単価を1300円にすると48億7500万円となる。ちなみに、公開から9週間経った現在までの「相棒」の興収は43億円である。
こうして計算してみただけでも、人気ドラマの映画化が、今後も続々登場してきそうな気配がする。ちなみに、海の向こう、アメリカでも「セックス・アンド・ザ・シティ」の映画版の大成功を受け、「フレンズ」も映画化の動きが出てきた。「24」や「LOST」だって映画化するのが既定路線。
どこの国も、映画はTVに深く依存しているのである。しかし、そんなことを今さら憂えても始まらない。TVの視聴者が、どんどん映画館に流れて来るのを期待するほうが前向きだ。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi