コラム:細野真宏の試写室日記 - 第83回

2020年7月21日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


第83回 試写室日記 「コンフィデンスマンJP プリンセス編」。夏休み映画の実写大本命作品が、この状況下で前作超えする可能性は?

2020年7月16日@東宝試写室

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新型コロナウイルス騒動で、緊急事態宣言解除後に映画館の稼働が始まりましたが、一言でいうと、「先の見通しが全く読めない」という状況にありました。

要は、不確定要素が多すぎて、「考える軸」が失われていた状況でした。

これまでも新作映画が公開されていましたが、必ずしも「勝負作」ではなく、興行収入の事前見通しは「通常の半分か、それ以下」といった重苦しい雰囲気が映画業界内にあったのです。

ただ、大きな希望は、戦略的に「勝負作」を組んでいた先週末にありました。

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実質的にトップバッターだった「今日から俺は!!劇場版」に今後の映画業界が託されていた、と言っても過言ではありません。

今の状況は、どれだけコア層がいるのか、が特に重要となっています。

その意味では「今日から俺は!!劇場版」は連ドラの時からファン層が小学生から大人まで、と幅広く、しかも日本テレビがジブリ作品並みに猛プッシュしていたので、これでダメなら、今年の映画業界は後ろ向きになるのも仕方ないと思う状況でした。(利益を上げられないとなると、予算がどんどん減っていってしまい、ますます縮小していきます…)

その意味では緊急事態宣言解除後、どの新作も無理だった「興行収入10億円突破」は重要なラインでした。

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今日から俺は!!劇場版」は本来的には、ファン層は異なりますが、昨年に興行収入26.5億円を記録した「劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD」と盛り上がり方が近いものがありました。

そのためポテンシャルとしては、幅広いファン層を考えると、興行収入30億円規模はあったのかもしれないのですが、あまりに視界不良だったので、結果を固唾をのんで見守ることしかできない状況でした。

そんな中、「今日から俺は!!劇場版」は見事にやってくれました!

金曜日からの3日間で興行収入7億8800万円を記録し、第1関門の10億円突破は余裕で達成可能で、最終的な興行収入も本来の30億円は射程圏内に入りました。

何と言ってもファミリー層をキチンと動員できたことが確認でき、やっと映画業界の霧が晴れてきて、「作品さえしっかりしていれば通常の興行収入も見込める」といった基軸が見えてきたのです。

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さて、そんな中、まさに今週の23日(木)から公開される「コンフィデンスマンJP プリンセス編」も、その流れをくむ勝負作で、前作の「コンフィデンスマンJP ロマンス編」は興行収入29.7億円と、ほぼ30億円を記録しています。

そもそも「コンフィデンスマンJP」は、連ドラの視聴率はそれほど良いわけではなかったので、映画で火がついた作品と言えます。

それも当然と言えば当然の話で、このシリーズはスケール感が大きいので、遊べる余地があるほど、面白さが倍増するような作品だからです。

とは言え、前作の大ヒットを受け、本作の製作が正式に決まったわけですが、キャスト解禁の際には、期待と不安の両方がありました。

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期待の方は、前作の大ヒットによって、さらにスケールアップできるので、作り手に余裕ができ、より楽しめる作品になるはずだ、と。

不安の方は、ゲストキャストを見た時に、少し嫌な予感がしていました。

それは、他の作品での演技を見ると、少しクオリティーを下げかねない、という印象があったからでした。

そんな期待と不安が入り交じる中、試写を見ましたが、正直、驚きました。

まさに「適材適所」で、どのキャストも、これまで見た作品より輝いていました!

これは、何と言ってもフジテレビの田中亮監督の手腕でしょう。キャストはいくら才能があっても、監督のセンスがないと光りません。

また、監督のセンスがあればキャストをさらに輝かせることもできるわけです。

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田中亮監督については、前作の「コンフィデンスマンJP ロマンス編」が映画監督のデビュー作だったので、ポテンシャルが読みにくかったのですが、特に本作ではキャストの活かし方が非常に上手いですし、映像表現もさらに進化を遂げていました。

これは、ヒット作の多いフジテレビ映画に、またポテンシャルの高い監督が登場したことを意味していて、映画業界には非常に明るい事例だと思います。

結果的に本作は、キャストもストーリーも演出も全面的にスケールアップしていて、間違いなく「コンフィデンスマンJP」史上、最高傑作が出来たと言えます。

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ちなみに、第1弾(「ロマンス編」)の時にスペシャル版として地上波放送された「コンフィデンスマンJP 運勢編」の視聴率は10.3%で、今回の第2弾(「プリンセス編」)の時の「コンフィデンスマンJP ロマンス編」の視聴率は11.7%となっていて、着実に認知度は上がっているようです。(なお「今日から俺は!!スペシャル版」は11.2%。すべてビデオリサーチ調べ・関東地区)

そのため、通常で考えると、興行収入は40億円~50億円規模も夢ではないと思います。

ただ、現状では映画館の座席数の問題もありますし、「今日から俺は!!劇場版」も想定以上に動員できているので、まずは前作の興行収入30億円規模が当面の目標でしょうか。

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この2作品は「ライバル」というより、一緒に日本の映画館を盛り上げる「共存共栄」となる関係のような気がします。

このように、やっと映画館にも景気の良さが戻ってきているのは「前向きに社会を動かす要因」となり、エンターテインメントの力強さを実感します。

なかなか遠出は難しい中、実は感染予防対策にも優れているのが映画館だと分かると、これまでのように「一番気軽な娯楽」として映画が経済的にも大きな意味を持ちますが、これを理解してもらえるのかは、結局のところ「作品力」に尽きるのかもしれないですね。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来14年連続で完売を記録している『家計ノート2024』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2024年版では「物価高騰時代にお金を増やす方法」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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