コラム:細野真宏の試写室日記 - 第275回

2025年4月23日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


試写室日記 第275回 劇場版「名探偵コナン 隻眼の残像」はシリーズ歴代1位の興行収入を記録できるか?

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劇場版「名探偵コナン」第28弾となる「名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)」が4月18日(金)に公開され、週末3日間で興行収入34億3862万6700円という大ヒットスタートを切りました。

前作の第27弾「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」では興収158億円を記録。遂に2024年の「年間興行収入で邦画・洋画を合わせて1位」となり、この先も年間1位を狙えるシリーズになっているのです。

そして、本作の初速の3日間の興収は、歴代1位だった前作の102%で記録更新のスタートとなりました!

劇場版「名探偵コナン」にとって、この第28弾は今後の興行収入を考える上で重要な回になっています。

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それは、本シリーズが大きく飛躍する契機になった第22弾「名探偵コナン ゼロの執行人」以降の作られ方が関係しています。

名探偵コナン ゼロの執行人」は公安警察などを巧みに使って大人の鑑賞にも耐え得るような作品に仕上げていました。

その結果、興収91.8億円を記録し「興収100億円が狙えるコンテンツ」にまでなりました。

同作の脚本を手掛けたのが櫻井武晴。これ以降は1作おきに脚本を担当しています。

いわば、この「大人コナン」が機能することで観客層を開拓し、興収を大きく跳ね上げることに成功したのです。

そして、第26弾「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」で念願の興収100億円を初めて突破し138.8億円を記録しました。

このように、大人の鑑賞に耐え得る「大人コナン」の回によって成長が期待できるのですが、その流れはどこまで続くのでしょうか?

私は、「ゼロの執行人」がそうだったように、やはり作品の出来によって変化が起こるのでは、と考えます。

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その意味で言うと、「隻眼の残像」のクオリティーはどうなのでしょうか?

まず、構造的に「隻眼の残像」の作り方と似ている作品を例に出しましょう。

それは、同じく櫻井武晴が脚本を担当した第24弾「名探偵コナン 緋色の弾丸」です。

「緋色の弾丸」は赤井ファミリーという各々に“関係性”のあるキャラクターをメインに据えていましたが、「隻眼の残像」は“個”の印象が強く、登場人物たちの必然性に欠ける行動や展開が目に付きました。

そして「緋色の弾丸」の方が、より緻密でダイナミックな作品という印象があるため、単純比較で言えば、本作の興収は「緋色の弾丸」よりも落ちてしまう面があるかと思います。

ただ「緋色の弾丸」が公開された2021年に比べると、現在では、さらにファン層が大きくなっているので、それを加味する必要があります。

また、「緋色の弾丸」は新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が直撃して過去最高の初速であったにもかかわらず大きく失速してしまった不幸な作品です。平時であれば「緋色の弾丸」が興収100億円を超える初めての作品になっていたのは間違いないと思っています。

このように考えると、本作の興収は100億円超えの作品になるのは確実としても、歴代最高記録更新とまではならないのかもしれません。

そして、昨年は特に強力な作品が少なかったこともコナンにとっては幸いでしたが、今年は興収404.3億円を記録し日本映画の歴代興収でトップとなった「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」に続く新作「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章」があります。

いずれにしても劇場版「名探偵コナン」シリーズは、超強力作品が無い年には年間興収1位を狙える、という極めて高いポテンシャルを今後も維持し続けると思われます。

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さて、本作は長野県が舞台となっています。

今や100億円コンテンツとなった劇場版「名探偵コナン」シリーズは、舞台となった地域に「聖地巡礼」などで多くのファンが訪れるようにもなってきています。

そのため、例えば今回の長野県では、本作の観光プロモーションを展開するために、映画の誘致などを行なう「信州フィルムコミッションネットワーク推進事業」を通じて予算が組まれています。

その額は1491万5000円で、昨年から倍増しています。

このうち、本作のプロモーションとしては300万円が充てられることになっているのです。

これからのゴールデンウィークはその資金石ともなり、果たしてどのくらいの経済を動かすことになるのか。

興行収入で歴代コナンの新記録を出し成長軌道が続くのか、地方経済の魅力発信に貢献し地方創生のビジネスモデルにまでなり得るのか――。本作が担う役割も含めて大いに注目したいと思います!

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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