コラム:細野真宏の試写室日記 - 第258回
2024年11月21日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第258回 「六人の嘘つきな大学生」は、兵庫県知事選の後だからこそ響く作品!
今週末2024年11月22日(金)から「六人の嘘つきな大学生」が公開されます。
私がこの作品を見て思ったのは、「兵庫県知事選のような映画だな~」ということでした。
本作は「IT系の就職活動の最終選考を競う6人の大学生の物語」なので「選挙」は一切関係ありません。
では、なぜそのように感じたのかを、以下で解説します。
まず、本作のメガホンをとったのは、佐藤祐市監督。直近ではNetflix版の「シティーハンター」で好評を博した監督です。
そして、佐藤祐市監督作品として忘れてはいけないのが、2007年の「キサラギ」。同作は、日本アカデミー賞では「優秀作品賞」「優秀監督賞」「優秀脚本賞」などに輝いています。
実は、「六人の嘘つきな大学生」を見た時に思い出したのが、この名作「キサラギ」だったのです。
「キサラギ」は、 脚本家・古沢良太のオリジナル作品で、「自殺したマイナーな女性アイドル・如月ミキの1周忌に集まった5人の男を描いた作品」です。
「キサラギ」が良く出来ていたのは、「物語が進むにつれて、情報のピースが増えていく→それによって“観客の見え方”が変わっていく」点で、脚本と演出が秀逸でした。
まさに「六人の嘘つきな大学生」は「キサラギ」的な作品。物語が進むにつれて、情報のピースが増えていき、“観客の見え方”が変わっていくのです。
一般に、物事の真相は多面的で、「Aだと思っていたものが、ある情報をきっかけに、全く正反対のBに見えたりする」ものなのです。
本作では、この仕組みを巧みに使って「就活の最終選考の場で起こった“ある事件”」を描きながら事件の真相を探っていく仕組みになっています。
今、話題となっている「兵庫県知事選」ですが、まさにこれも情報の取り方や解釈の違いによって「見え方」が大きく変わってくる事象です。
つまり物事は多面的なので、どの情報から結論を出すのかは、「本当にその情報だけで大丈夫なのか?」という問いを常に頭の片隅に置いておかなければならないのです!
このような「情報判断」の根本を再確認したうえで「六人の嘘つきな大学生」を見てみると、様々な展開で頭の訓練にもなります。
「兵庫県知事選」について、ここでは自分の考えは述べずにおきますが、本作の「犯人」の動機については、個人的には「ちょっと無理がある?」とは思いました。
果たしてあなたの判断がどうなるのかは、映画を見て「検証」してみてください。
さて、このところ新作映画に元気がなく、興行収入10億円というのが大きなハードルになってきています。「六人の嘘つきな大学生」にはそのハードルを超えることを期待したいです。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono