コラム:シネマ映画.comコラム - 第27回
2023年2月17日更新
若手映画監督や海外進出を支援するデジタル・プレイスメント広告って何だ?
本コラムの第27回は、2022年11月22日からスタートした「デジタル・プレイスメント広告企画」の第1弾作品「ココロ、オドル」、第2弾作品「マイライフ、ママライフ」に続き、2月17日から配信スタートの第3弾作品「ある惑星の散文」をピックアップして、作品の見どころや同企画について紹介します。
【作品概要】
神奈川県横浜市の本牧を舞台に、人生の岐路に立つ2人の女性が織りなすささやかな物語を描いたドラマ。濱口竜介監督の「偶然と想像」などで助監督を務めてきた深田隆之の初劇場公開作品。横浜市出身の深田監督が、かつてはアメリカ軍の接収地としてその文化を吸収し、その後は鉄道計画のとん挫などにより陸の孤島となってしまった本牧を舞台に、映画を撮ろうと考え、ロケーションからシナリオを発想して制作された。
2018年製作/99分
【あらすじ】
脚本家を目指すルイは、海外に行っている映画監督の恋人アツシの帰りを待ちながら、スカイプ越しの会話で2人の今後の新しい生活への計画に胸を躍らせていた。一方、舞台俳優として活動していた芽衣子は、精神疾患によっていまは舞台を離れ、カフェで働いていた。そこへ急に兄のマコトがやってくる……。
■停滞した時間と距離を巡る映画
本作は、停滞した時間と距離を巡る映画。誰の人生でも物事が上手く前進しない停滞した時間があるように、この物語の登場人物たちも停滞した時間を過ごします。けれど、停滞している時にも様々な葛藤や自分自身と向き合い想いを巡らす時間の豊かさが凝縮されていて、心の機微を繊細に表現する俳優たちの芝居も見どころとなっています。フランスの第33回ベルフォール映画祭長編コンペティション部門にノミネートされ話題となりましたが、4年の時を経て、昨年6月に劇場公開されました。
■詩的な感性を持つ深田隆之という新しい才能
深田監督は1988年生まれ。2013年に短篇映画「one morning」が仙台短篇映画祭、Kisssh-Kissssssh映画祭などに入選。18年に「ある惑星の散文」が国内では福井映画祭でノミネート。19年にはアメリカのポートランドで行われたJapan Currents、日本映画特集で上映されました。映画製作以外の活動としては、13年から行われている船内映画上映イベント「海に浮かぶ映画館」の館長を務め、社団法人こども映画教室の講師・チームファシリテーターとしても活動。21年からは愛知大学メディア芸術専攻で非常勤講師を務めています。
本作について、「2人は停滞した時間にいながらも、そこから少しずつ変化しようと動き出します。これが本作が見つめるささやかな物語です。そして、距離をめぐる映画でもあります。登場する人物たちの物理的な距離、そして感情の距離が宇宙を漂う惑星のように静かに、しかし刻々と変化していきます。彼らはお互いに近づいては離れることを繰り返しますが、“近い”ことが最良の結末を迎えるとは限りません。現在、このコロナ禍で私たちは他者との“距離”をこんなにも意識したことはありませんでした。6年前に撮影した本作が今を生きる私たちの感情に、不安と停滞に反響することを願っています」とコメント。
■自分を記憶する存在を求めて
人生の岐路に立ち、惑星のように停滞した時間を彷徨う2人の女性を演じたのは、富岡英里子と中川ゆかり。脚本家を目指すルイを演じた富岡は「現場は、毎回全員参加のミーティングから始まった。どの部も自分の持ち道具を置き、お互いのコンディションを確認し合い、その日撮るシーンについて話し合った。それは、お互いを一人の人として見つめ合う時間だった。台本の解釈について話し合う時、監督の最後の言葉はいつも『そんな気がします』だった。『こうなんです』と断定されるよりも遥かに信頼できた。みんなで話し合ったことを持ち寄り、各々がスタートからカットまで、そこで起きることを見つめ続けた」と振り返っています。
舞台俳優として活動していた芽衣子を演じた中川は「深田監督がベルフォール映画祭での上映後、現地の高校生に『この後2人はどうなるの?』と尋ねられたと教えてくれました。何気ない質問にも思えるこの一言は、足が止まりがちな私の背中を今も優しく押してくれています。今思えば、彼女はその名前から想起される大きな理想に気圧されて生気を自分の奥底に沈めてしまったかのようです。そんな彼女が、身近な世界の手応えに導かれて自分を取り戻す場所はやはり劇場、映画館なのでした。時を経て、今回の上映がどなたかと交差する機会となりますように」とコメントを寄せています。共演はジントク、渡邊りょう、鬼松功、伊佐千明、矢島康美ら。
■「プロダクトプレイスメント」と「デジタル・プレイスメント」って何だ?
それでは作品の中に、どのように広告が後から掲出されるのでしょうか。テレビドラマや映画の劇中で、小道具や背景に企業の商品やロゴを映り込ませることでPRする広告手法が「プロダクトプレイスメント」です。この方法は、テレビドラマや映画の撮影時にPRしたい商品を入れ込まなければならないため、撮影後にテレビドラマや映画が公開されるまでの期間中に新しい商品が出てしまうという問題が発生する点など、いろいろとスケジュール面の調整作業や懸念点がありました。
この課題を解決するのが「デジタル・プレイスメント広告」です。日本初のサービスである日本映画・映像専門の海外向けオンラインマーケットを展開するフィルミネーションが、日本人の若手映画監督や海外進出を目指す日本映画支援しています。今回、「デジタル・プレイスメント広告」を日本で推進している、カカクコムグループのガイエ協力のもと、デジタル・プレイスメント専門会社の英Mirriad社の特許技術を活用し、実現困難とされてきた「ロゴ、商品をオンデマンドで映像に入れ込むデジタル・プレイスメント」という新しい手法によるプロジェクトをスタートさせたのです。
■「デジタル・プレイスメント広告」の可能性とは
「デジタル・プレイスメント」の技術によって、映像収録後でも商品画像さえあれば、後付けで映像内に入れ込むことができます。また、AIの活用によりカメラの動き・背景・露出時間などを自動解析することで最適なプレイスメント箇所が提案され、プロダクトプレイスメント作業を数日間という短期間で行うことが可能。視聴者、ユーザーの属性に合わせて、入れ込む商材を出し分ける、といったターゲットに合わせた配信もできます。
この技術を活用することで、視聴者は広告に煩わされることなく映像を視聴することができ、広告主は自然な流れで自社の商品情報を露出することが可能です。最近では、有料動画配信サービスにおいて広告により新たな収益を得る取り組みも話題となっていますが、この手法を取り入れることで収益面も含め、若手映画監督や、海外進出を目指す日本映画支援を具現化することができます。今回も、北海道札幌市中央区に本社を置く、日本の航空会社「AIR DO」が協賛しています。
■映画の自然な流れの中での商品情報露出
「ある惑星の散文」では、芽衣子が働くカフェの外に立てかけてある看板や店内カウンター上など、あわせて6シーンで「AIR DO」の広告が露出しますが、まるで撮影時から入れ込まれていたかのようで、物語の流れや内容を損なったり、違和感を感じるような露出にはなっていません。今回の企画に参加する作品はフィルミネーションが厳選した、海外進出を目指す有望な若手映画監督作品となっています。
「デジタル・プレイスメント広告」が映画作品の中で広がり、どれくらいの広告効果を発揮していくのか。そして、それによって日本人の若手映画監督や海外進出の支援にどのようにつながっていくのか注目されます。通常版と「デジタル・プレイスメント広告版」を配信していますので、見比べてみてください。「デジタル・プレイスメント広告版」は通常版よりお安く視聴できます。(執筆/編集 和田隆)