コラム:若林ゆり 舞台.com - 第85回

若林ゆり 舞台.com

キヌ子という、生命力溢れるキャラクターについても聞いてみた。

「第一印象は『無垢な人なんだな』と。男性に対しても物事に対しても、曲がっていないというか、何事もまっすぐに無垢にとらえている。親に捨てられて、生きるために闇市で担ぎ屋をやっているわけですから、生きるために得てきた知恵はある。でも男性に対しては全く経験がなくて、たぶん闇市のおっちゃんたちには『男には気をつけろよ!』とか言われながら、それを鵜呑みにしている、みたいな(笑)。かわいくて純粋だな、と私は思っています。だからこそ見ている人も、田島(藤木直人)も愛人たちも、最後にはキヌ子を嫌味なく祝福できる。そういうキャラなんじゃないかな」

撮影:若林ゆり
撮影:若林ゆり

キヌ子といえば、原作にはその声を「鴉声(からすごえ)」とする描写がある。

「調べたんですけど鴉声なんて言葉はなかったので、たぶん太宰の造語ですよね。脚本では触れられていないんですよ。私はまだその声を見つけられていないんですが、私は声にもキヌ子の純粋な感じを出したいと思っていて。生瀬さんからは『ガサツな感じはほしい』と言われているので、そのミックスで着地点を探している感じですね。あまりしゃがれた声だと喉に負担がかかっちゃうし、セリフが聞き取りにくくてもダメだし、悩ましいです。キヌ子は、見た目は着飾ったらそれなりに見えるんですけど、闇市で働いていて言葉遣いが上品ではないので、そういったキャラクターを表現するためには、どういう声や表現方法が望ましいのか。生瀬さんからもいろいろとアイデアをいただきながら模索中です。私はキャラクターや感情がきちんと整理されないとセリフが入ってこない人なんですね。藤木さんは稽古の最初からほぼ完璧に入っていたので『どうしよう!?』と焦る私、みたいな(笑)。本当にセリフ覚えが悪くて、ギリギリまで間違えたりする。でも『本番は絶対に間違えないから』って皆に言うんです。どこかのドラマじゃないですけど『私、失敗しないので』って(笑)」

ふてぶてしさすら感じさせていたキヌ子が次第に見せ始める、恋する女の純真さの表現も難しいところだという。

「お客さんは前のシーンを見ているから、我々の演じるキャラクターがまだ知らない情報を持っていたりする。キヌ子の気持ちをわかって見ているお客さんと、田島に共感して見ているお客さんとで次のシーンの見方が変わってくるんですよ。だから感情の流れだけではなく脚本の流れとして、シーンごとにお客さんがどう見ているかを踏まえて演じ、なおかつコメディとして成立させなければいけない。その具合もすごく難しいんです。コメディというのはリアリティの中で真剣にやるからこその面白さが大事なので、バランスをどうとるか、苦戦しています」

ズラリと揃った「KERA CROSS」版「グッドバイ」のキャスト陣
ズラリと揃った「KERA CROSS」版「グッドバイ」のキャスト陣

とはいえ、生瀬が面白がって演出するこの舞台が、面白くならないはずがない。

「稽古5日目くらいからかな、生瀬さんがシチュエーションを遊び始めたなという感じがして、面白くなってきました。私の印象ですけど、生瀬さんって毎日、見せる顔が違うんですよ。『あ、変えていいんだ、ここのセリフ』みたいな箇所を変えたりして、遊んでいらっしゃいますね。『君がやるならこのセリフに変えた方が合うから、これでいこう』とか。生瀬さんの心の内を聞いたわけじゃないですが、プレッシャーというよりも、自分流にどう演出するかを楽しんでいらっしゃるなと感じます。キャストには『ストレスのない現場にしたい』ということをおっしゃっていましたね」

ソニンが目指し訴えたい、この「KERA CROSS」版「グッドバイ」の魅力とは?

「このカンパニーは、すごく仲良くなってきました。皆さんそれぞれ、変に主張が激しいわけではないのに個性がはっきりあって、面白い。だから間違いなく、このカンパニーの色が出るだろうなと思うし、このカンパニーにしかできない『グッドバイ』をやりたいと思っています。初演とはまた異なる新演出版として、お客さんにもオリジナルを見るようなつもりでいらしてほしいですね。初演を見ている方も、見ていない方も楽しめるように、我々は一生懸命、心をこめて稽古をがんばっていますので。プレッシャーを感じている私でも、『ああ、我々のグッドバイを作ることができているな』と日に日に実感できているんです」

「KERA CROSS」第2弾「グッドバイ」の東京公演は、1月11~13日にかめありリリオホール、2月4~16日にシアタークリエで行われる。そのほか山形、新潟、広島、大阪、香川、愛知、福島でも公演が予定されている。詳しい情報は公式サイト(https://www.keracross.com/)で確認できる。

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。