コラム:若林ゆり 舞台.com - 第77回
2019年4月8日更新
第76回:「ハムレット」という大役を得て悩める岡田将生の成長と色気に期待!
岡田はこの後も8月に「ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~」に出演と、舞台に意欲を燃やしている。彼が舞台を好きになったのは、やはり蜷川幸雄の影響が大きいという。厳しくもやさしく、蜷川が「何から何まで教えてくれた」おかげで、その醍醐味を知ることができたからだ。
「初舞台のとき蜷川さんにずっと言われていたのは『アップと引きを自分の芝居でやりなさい』ということ。『自分の見せたい顔と、これは舞台全体を見せたいというのを意識して、考えてお芝居をしなさい』、それに『セリフはしっかりと聞かせなさい』という言葉はいまでも僕の中で生きています。蜷川さんとの時間がなかったら、僕はたぶんいまも舞台をやっていないだろうし、本当に頭が上がりません。だから今回の『ハムレット』を、蜷川さんに見ていただけるようなものにしたいというのはあります。いま思い出したんですけど、その初舞台のときに辛口の劇評があったんです。それで蜷川さんが『クソ喰らえだー!』って書いた大きな紙を貼ったんです(笑)。だって僕らは自分たちの信じた芝居をやっているわけで。おまえはおまえの信じた芝居をすればいいんだ、と教えてもらいました。僕はその言葉の書かれた紙の写真を撮っていて、芝居をやる度に見ているんです。『こういう方が先頭に立ってくれているなんて、こんなに嬉しいことはないな』って、そのとき思いました。蜷川さんがそんな風に言葉を書くなんてことは滅多になかったそうで、それほどあの芝居を愛してくださってたんだな、と思うと、すごくうれしいです」
では、岡田が感じる「舞台に立った者にしかわからない喜びと悔しさ」とは?
「やっぱり稽古してきたものを100%、120%できているなと感じられた瞬間や、拍手をいただいたとき。『あ、生きてる』って思える瞬間は嬉しいです。でも、舞台はナマモノですから失敗することもあります。セリフがポーンと飛んじゃったこともありましたし(笑)。スタッフさんに『失敗した』『どうしよう、立てない』なんて、普通に弱音を吐いています(笑)。でも、それでも出番が来れば立たなきゃいけない空間が舞台です。話が進んでいくから、誰も止めてくれないから、立つしかないから立つ。そういうのがないと立てないんだろうな、と思います。ヒヤッとする度に『あ、舞台やってるなー』ってすごく思うんです(笑)。でもリスクがある分だけ得るものも多くて、感情が豊かになる。その空間は演じている人たちが支配しているから、苦しいけど気持ちがいいんだろうなと。共演者とお芝居の息が合うと気持ちがいいと思うし、それが日によって違うのもまたいいんでしょうね」
もうひとつ、大きな経験があった。いまの岡田に「ハムレット」をやれるという自信を与えてくれたのが、落語家役を演じたNHKのドラマ「昭和元禄落語心中」だ。
「お客さんに聞かせるということが舞台にはとても重要なことで、それは落語も同じ。高座も舞台ですからね。『落語心中』で落語をやっているとき『もしかしたらこれは『ハムレット』に活かせるな』と思ってやっていたところもありますし、変な自信につながっているんです。独白とか聞かせなきゃいけないセリフを、ちゃんと届けられるぞ、と思っているところがあるので。だから、『落語心中』の時間はかけがえのないものでした。落語も言葉のリズムがよくて酔いたくなってしまったので、そこは今度も自分で止めないと」
「昭和元禄落語心中」はまた、いままでの岡田にはなかった"色気"がすごいと評判を呼んだ作品。男の色気という部分でも、今回のハムレットにつながるはずだと期待が高まる。
「やっぱり苦悩している人は、色気がありますよ。僕は苦悩している人は素敵だなと思うんです。悩んでいない、ポカンとしている人よりも、ずっと苦悩し続けているハムレットは色気のある男なんだと思うし、そういう風に僕も見せたいと思います。今回は本当に、綺麗にまっすぐに舞台に立ちたい。で、崩れている立ち方もしたくて。それができれば、きっと色気につながっていくと思っているんです。それも稽古場で探したいと思います」
「ハムレット」は5月9日~6月2日 Bunkamuraシアター・コクーンで、6月7~11日 大阪・森ノ宮ピロティホールで上演される。詳しい情報は公式サイトへ。
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/19_hamlet/
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka