コラム:若林ゆり 舞台.com - 第47回
2016年9月1日更新
第47回:スーパー娯楽時代劇「真田十勇士」で中村勘九郎と加藤和樹を支える男の友情!
「これでもかっ!」という作り手と演じ手たちの声が聞こえるような、そんな舞台だった。2014年に初演された「真田十勇士」は、それほど観客を楽しませようという気迫に満ちていたのだ。そのスーパー娯楽時代劇が、“真田イヤー”と言われる今年の秋に帰ってくる。しかも同時期に映画版も公開というからめでたいじゃないか。
マキノノゾミのオリジナル脚本、堤幸彦のスペクタクルな演出で話題となった本作は、「名将と謳われた真田幸村は、実はヘタレだった」という驚きの設定。見かねた抜け忍びの猿飛佐助(中村勘九郎)が「オイラの嘘で、あんたを本物の名将に仕立て上げよう」と決意し、まるで「オーシャンズ11」のように「真田十勇士」をスカウトして回るのだ。
今回の再演では一部、キャストが入れ替わることも楽しみ。なかでも注目は、初演と映画で由利鎌之助を演じた加藤和樹が、初演と映画では松坂桃李が演じた猿飛佐助の相棒、霧隠才蔵役を務めること。そこで、実生活でも信頼し合っているという勘九郎と加藤に話を聞いた。
まずはこの破天荒な舞台の芯となる、脚本の魅力について語ってもらおう。
勘九郎「もう最初のナレーションから『歌舞伎界のナントカ』ってすごいセリフが出てきて、ビックリしましたよ。でも、読んでいくと、『何が嘘で何が本当か』っていう、この芝居のテーマが浮かび上がってくる。自分たちがやっている芝居ってもの自体が“嘘”ですからね。自分たちが生きているなかでも、本当に何が嘘で何が本当かわからなくなることってあるので、『あ、恐いことを描くなあ』って思いましたねぇ」
加藤「マキノさんも練りに練ってこの脚本を書いたと思いますし、面白いだけじゃなくてどんなに遊んでも本筋に戻ってくる。それを僕らが見失わずに表現できるか、だと思います。僕らがやっている芝居って、所詮は嘘なんですよね。でもやっぱりそれを本当に見せるっていうところでこのテーマと通じている部分もあるし、作品の持つ力というものをすごく感じましたね」
そしてこの脚本を、プロジェクションマッピングを駆使した見事な場面転換、ダイナミックな殺陣やワイヤーアクション、ギャグで彩り、究極のエンターテインメントに仕立てたのが堤の演出だ。
勘九郎「十勇士のキャラクター各々を、ここまで立たせたというか印象づけたのは監督ですから、すごいなと思いますね。考えることが面白いんです。無茶振りも多々ありますけども(笑)。だから今回いちばん不安なのは、映画を作っちゃったせいでもっと面白いことをやろうと意気込んでいる監督ですよ。恐いですねえ(笑)」
加藤「初演の立ち回りって、ホント大変だったんですよ。本当に毎回毎回、みんな息切れして倒れ込むくらい。早く死ぬヤツがうらやましいって感じでしたから(笑)」
とにかく役者にとって「大変」な作品らしい。面白いのはこの再演について聞いたときの反応だ。2人とも「マジか!」なのだが、そのニュアンスは少し違う。
勘九郎「初演のときは、役者もスタッフも本当に素晴らしいチームだと思ってやっていましたからね。それで公演中、みんな冗談半分、本気半分で監督に『これ映像にならないですか?』って言っていたんです。だから映画が決まったって聞いて『お~お、マジか!(喜)』。そこに(舞台の)再演もくっついてくるって聞いて、『マジかあ~!?(焦)』って(笑)。初演は楽しかったけど、本当に大変だったんでねぇ。あの日々がまためぐってくるのかと思うと、がんばらないとなあ、と思って。何が大変って、やっぱり体力的にですよね。エンタテインメントの作品なんで、舞台狭しとみんなで走りまくって、しゃべり狂わなきゃいけないので」
加藤「僕も再演できると聞いて、『マジか!(喜)』という気持ちになったんですけど、自分的には役が違うので、そこで『マジか!(焦)』っていうことがありまして。僕としては鎌之助を演じる気でいましたからね」
勘九郎「あ、そうね! それは3つめの『マジか!』。和樹が才蔵役になったと聞いたときの『お、マジか!(喜)』で、ちょっとモチベーション上がった(笑)」
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka