コラム:若林ゆり 舞台.com - 第36回
2015年10月19日更新
第36回:宝塚退団直後、ブロードウェイの大スターたちと共演する柚希礼音をニューヨークで直撃!
柚希礼音のニューヨーク生活は、まずは英語の勉強から幕を開けた。2週間の個人レッスンを受けた後、語学学校へ。それに加えてボイストレーニング、ダンス、とくにバレエのレッスン、ジャイロやピラティスといった体を整えるためのエクササイズなど、9月から始まる稽古の準備に明け暮れた。
「聞くところによると、すごいパワースポットなんですって、マンハッタンって。パワーがあったりやる気がある、何か目的がある人にはすごいパワースポットなんだけど、そういうみんなの勢いに乗れない人にとってはサイアクの地なんだそう。私って癒やされるような場所が好きだから、そういうのを求めたくなるんだけど、いまこういう状況でそれを求めたら置いていかれるという感じがするので、この忙しい街の中で必死にやっています」
そうした生活を垣間見せてくれたのが、ニューヨークで始めたインスタグラム。街中での自撮り写真や共演者との楽しげな写真が好評を呼んだ。
「長い期間ニューヨークに行くので、ツイッターとかブログか何かをしてほしいってファンの方々に言われたんですが、文章を毎日更新しなきゃって思ったらたいへんかなって (笑)。悩んでいたときに、高校からの大親友が言ってくれたんです。『インスタにしなよ』って。『インスタって何!?』ってなってたら、『カッコいいインスタはこれ』とかさんざん画像を送ってきました(笑)。私はファンの人たちと繋がってたいのでついつい文章をいっぱい書いちゃうんですけど、そうすると友だちから『毎回文章とか載せず、写真だけのときとかあっていいんだよ』とか(笑)。いろいろダメ出しをされながらやっています。でも共演者もみんなインスタをやっている人ばかりで話題も広がったし、孤独を感じたときもファンの方々のコメントに勇気をもらうことができたし。インスタやっててよかったなってすごく思いましたね」
もう1つ、柚希がニューヨークで「目から鱗」だったのが、「男らしさ、女らしさ」の概念だった。男性たちの紳士的な振る舞いにどぎまぎしまくり、女性陣のガールズトークにたじたじの日々だったというのだ。
「日本人が思う女性らしさってフェミニンでかわいらしいイメージじゃないですか。でもアメリカでは、私なんかよりも断然男っぽい人もたくさんいる。マリアンド(・トーレス)さんなんて、もう男役みたいにカッコよくて、それでいてセクシーな大人の女という感じ。ああいう方がいい女とされているアメリカの中では、私なんか別に男っぽくもないみたいなんですよ。たとえば『オーシャンズ11』のオーシャンをやったって言うと、『なんでレオンが?』って。舞台写真を見せても、『どう見ても女だよ』って言われます。アメリカの女子トークってすごいんですけど、エスコートとかちゃんとしてくれない男性は『ダメな男だ』って、けっこう上から目線。私はレディ・ファーストみたいな扱いをされることにも慣れていないし、稽古場で座ろうかな、と思うとラミンさんたちがさっと床に座って席を空けてくれたりすることとかも『ありえない~』って思う。でもブリヨーナ(・マリー・パーハム)さんは『そんなんじゃダメよ!』って(笑)。日本では、女性は尽くすのが美、みたいなところもあるじゃないですか。でも『もう尽くすなんてあり得ない、尽くされるのがいいんだよ』みたいな(笑)。女性らしさ、男性らしさのバリエーションがここではあまりに多様で、ビックリすることばかりです」
ニューヨークでの3カ月で、1人の人間としても女性としても、パフォーマーとしても大きな成長を遂げた柚希。この経験が、これからの柚希にとって大きな財産となることは間違いない。まずは「プリンス・オブ・ブロードウェイ」でその成果を見てほしい。
「宝塚ではお客様の反応がすぐに返ってきたから、つねに手ごたえを感じて生きてきたんですね。だからここでは、ひたすらやってもやっても、進んでるんだか立ち止まってるんだか自分にしかわからないのがすごく恐い日々でした。でも世界は広いな、果てしないなとつくづく思いましたね。このすごい出演者の中で、自分はどう見えるだろうとか、この出番数でどうアピールすればいいんだろうとか、ファンの方々が幻滅しないだろうとか、たくさん考えて恐くなったしいっぱい悩んだんですけど、やっぱり自分が楽しみながらやることが大事なんじゃないかと。そうしたら、それを見た人も楽しくなってくれるんじゃないかと思うようになって。自分がここにいて、挑戦しているものを楽しんで見ていただけたら最高にうれしいです」
「プリンス・オブ・ブロードウェイ」は10月23~11月22日、東急シアターオーブで、11月28~12月10日、梅田芸術劇場メインホールで上演される。詳しい情報は公演のオフィシャルサイトへ。
http://pobjp.com
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka