コラム:若林ゆり 舞台.com - 第36回
2015年10月19日更新
第36回:宝塚退団直後、ブロードウェイの大スターたちと共演する柚希礼音をニューヨークで直撃!
そして2幕には、「ブロードウェイに憧れて来たレオン」をフィーチャーしたオリジナルの場面がある。
「このすごい作品の中で、私にあて書きした新場面を作っていただいたということがもう、夢のようです。レオンがニューヨークに来て、オーディションを受けてもなかなかうまくいかず、だけどついには認められてセレブになる、というようなストーリーで。コミカルなところもあって、私そのものみたいな役。ほかは全部、名作からの名場面で構成されている中、『フォーリーズ』の曲『ブロードウェイ・ベイビー』を使いながらの新曲と新振付なので、オリジナルに参加できたという気になれて感激です。稽古場でも毎回、泣きそうになるんですよ、あり得ない光景すぎて」
ほぼ初めての女性役、ということで本人の不安と緊張はたいへんなものだったというが、ふたを開ければ無理に高い声を出すでもなく、柚希がもともと持っている魅力を最大限に活かすという演出意図がハッキリとわかる。だからのびのびと持ち味を発揮できているのだ。
「ハロルド・プリンスさんは、その人の持っている個性、いちばんいいところを引き出そうという方針なんです。スーザン・ストローマンさんも音楽監督や指揮の方も、みなさんがそう思っていらっしゃる。最初は、みんなで歌うコーラスでもいままで出したことがないような高いキーで歌うところもあったんですけど、ハロルドさんが『レオンはこっちのキーの方がいいよ。高い声のきれいな人はいっぱいいるけど、こういう声の人もあまりいないから、そこをちゃんと大切になさい』って言ってくださったんです」
「ブロードウェイ・ベイビー」の場面では、トニー・ヤズベックに何度もリフトされるデュエットダンスが見もの。いままで男役として相手役をリフトする立場だった柚希としては、リフトされる気分は?
「もうすっごく申し訳なくて。トニーさんがリフト増やすって言い出したときは『え、本当に!? やめてやめてー』って思ってました(笑)。でも、自分が宝塚でリフトしていたとき、どうせするなら『ほんとすみません~』って乗られるより、上げたときにパーッと華やかに、気持ちよさそうに決めてくれた方がやりがいがあったなと思って。申し訳ない気持ちだらけですけど、思い切ってやらせてもらっています。でもね、トニーさんはとてもすごいしカッコいいんですけど、自分だったらあそこの表情はこうするなとか、ついつい男役目線で見てしまう(笑)。宝塚にはリアルな男らしさとは違う、女子が求める男子の清潔感とか、夢の王子さまみたいな理想像があったんだなと改めて感じています」
スーザン・ストローマン、トニー・ヤズベックと場面を作り上げていく経験は、「宝塚時代とは何もかもが違う」新鮮な驚きをもたらすものだったという。
「スーザン・ストローマンさんは演出もされているのでただ振りを付けるのではなく、お芝居を含んだ場面作りをされる方。完璧に踊りこなすところまで作ってから私たちに渡すので、無駄な待ち時間はまったくないんですよ。そして、踊りにくいかどうかをすごく聞いてくださるんです。『自分が気分よく踊れないとその人のよさが出ないから』って。それで何度も何度も振りが変わりました。トニーさんもよくするためにいろいろ提案されるから、『私、男役のときこんなこと提案できなかった』って反省してます(笑)。『ねえレオン、ここは僕が膝で滑ってこう見上げた方がよくないかな?』とか、リフトも『もっと増やしたほうが盛り上がるよね?』って。スーザンさんとトニーさんとが一緒に考えながら進めていく稽古が多かったんですが、自分に合った振りをつけていただけるという経験ができて、感謝しかないです」
とくに違うと感じるのは足下だ。慣れないハイヒールでのダンスで、足の裏はタコやマメができては皮が破れ、の繰り返しだったそう。
「それまで男の側を踊っていたので、女性で踊ると使う筋肉も違うんです。ヒールになるとこんなに難しいのかとビックリ。しかもニューヨークの稽古場は床がすごく滑りやすくて、アイススケートかというくらい滑りました(笑)。最初のうちは振付のとき何回も踊るじゃないですか、朝から晩まで同じ振りばかり。だから皮がめくれてもめくれても『またマメができたー!』って感じでテーピングだらけだったんですけど。それもだんだん治ってきましたし、慣れました。オンナってたいへんだなって思います(笑)」
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka