コラム:若林ゆり 舞台.com - 第34回
2015年9月11日更新
第34回:太宰治の未完絶筆コメディが舞台で完成、小池栄子が怪力したたか美女に扮して魅せる!
タイプの違う愛人たちを演じる女優陣とは初顔合わせが多いが、田島役の仲村トオルとは、映画「接吻」などで過去に数回、共演経験がある。もう「あ・うん」の呼吸と言える?
「共演するのはすっごく久しぶりです。でもトオルさんのチャーミングさって田島さんに似てるなって思うんですよね。真っ直ぐさというのがときにちょっと滑稽に映ったりとか。田島の正義というのは端から見たら正義でもなんでもなくて。『また何バカなことやってんのよ!?』って思っちゃう男なんだけど、放っておけない。なにそんなとこでムキになってるのよという子どもっぽさもちょっと残っていて。見ている人もみんな田島に惚れちゃえばいいと思います(笑)」
女優としての小池にとって、転機のひとつとなったのが映画「接吻」だった。最初は拒否反応もあったというこの作品へのチャレンジで、数々の映画賞に輝くなど評価を一気に高めた感がある。
「『接吻』で評価していただいたときの喜びは、私にとってすごく大きな影響を与えているものだと思いますね。嫌なことをやってみようというときにはその当時を振り返ったりして、絶対無理なことはないんだから、やってみようって思えるので」
ここ最近はとくに進境著しい。宮藤官九郎脚本の舞台「万獣こわい」や大人計画と劇団☆新感線がコラボした「ラストフラワーズ」、NHK連続テレビ小説「マッサン」のハナなど、小池の女優力が「怪力」化しているのは、古田新太ら百戦錬磨の先輩たちに鍛えられた成果という部分もありそう。
「客席や場を読んでセリフを言うこととかをすごく古田さんが教えてくださって。あのシーンは絶対に笑いをとらなきゃいけないから、笑いが来るまで粘れとか、このあとにひと間おいてからセリフ言ってみろとか。その古田さんの指示どおりにやったら見事に反応が来たときの気持ちよさ(笑)。これを自分で考えられるようにならなきゃいけないんだなと思いましたし、それはすごく勉強になりました」
小池にとって舞台は「恐い、でもその分楽しみも大きい」ものだという。
「稽古場で失敗を繰り返したりうまく出来なくて指摘されたりするのって慣れないし、恥ずかしいな、嫌だなと思うことはありますよ。役になりきるということがわからなくなっていつも悩むし。でもそこと向き合えなくなったら終わりだなと思うから。しんどいし恐いけどやってみようと踏み込んでみた世界には、自分の知らないことを大いに勉強できる環境や瞬間がある。だから舞台はやめられないんだろうなあと思います」
真面目で繊細。好きな映画を聞くと意外な答えが返ってきた。
「さびしい人、孤独な人が出てくる映画が好き。『シングルマン』とか、「わかるわかる、人ってこういう気持ち持ってるよね」と感じるので。『イントゥ・ザ・ワイルド』は3回くらい映画館で見ましたね。たぶん私が『接吻』に惹かれた理由も、『実は私ってこっち寄りの人間なんだよね』っていうのがあったから。自分の持っているマイナス面も、役を通してでも魅力的に見せられるんだよなあと感じて、好きなんです。まあ、ものすごくいつも暗いってわけではないんですけど、とてつもなく明るいイメージを持たれている気がして(笑)。いつも元気でシャキシャキしてて、『だから理想です!』って言われたりすると『そうしなきゃいけないんだ』ってプレッシャーになったりするじゃないですか。『小池だったら大丈夫だよね、ガハハって笑い飛ばしてくれそう』って言われたりすると、『本当はしんどいし、いまもグジグジ思ってるんだけどな』って言い出せない。だから逆に、演出家とか共演者に『君のそういう根暗なとこ面白いよね』って言われると気分が楽なんです」
ちゃんと恐れてちゃんと疑問を消化し、ぐんぐん成長している小池の作り上げるキヌ子は、きっと客席を魅了するだろう。そんな小池がいま、“グッドバイ”したいのは?
「“マジメないい子ちゃん”にはグッドバイしないと、新たな自分には出会えないと思っています。先輩たちがよく『わかりましたーってすぐ言う若手、多いんだよね。どういうことですか、ってもっとぶつけてきゃいいじゃん』っておっしゃっているんです。疑問も素直にぶつけられる、話し合える自分でいたいから、わかった振りをする自分にはグッドバイしたいなと思います」
「グッドバイ」は9月12〜27日、世田谷パブリックシアターで上演。その後、北九州、新潟、大阪、松本、横浜で巡演。詳しい情報は公演オフィシャルサイトサイトへ。
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka