コラム:若林ゆり 舞台.com - 第3回

2014年3月20日更新

若林ゆり 舞台.com

第3回:宮藤官九郎が最強の怪優3人組と組んだ第3弾「万獣こわい」は恐るべし!

日本演劇界において最強と謳われる3人の怪優、生瀬勝久池田成志古田新太がチームを組み、「いま自分たちがいちばんやりたい芝居をやる」というコンセプトで始めた演劇ユニット〈ねずみの三銃士〉。このユニット、間違いなく最強だ。この3人に「半ば脅されて」(本人談)脚本を手がけているのは、宮藤官九郎。演出は、恐れを知らない売れっ子演出家の河原雅彦なのだ。これ以上強力な組み合わせなんてあるだろうか?

第1回公演は04年。とことん鈍い元同級生が周囲の殺意と恐怖を誘うという「鈍獣」だった。コワいのに面白すぎるこの衝撃作は日本の演劇シーンを震撼させ、岸田國士戯曲賞を受賞。細野ひで晃監督により映画化もされた。第2回は5年後の09年、自称・大女優役に大女優の三田佳子を迎えた「印獣」も鮮やかなものだった。それからまた5年。今年、第3回を飾る作品が「万獣こわい」である。

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パワフルな個性の塊〈ねずみの三銃士〉が脚本の宮藤につける注文は一貫して「コワくて、えげつなくて、笑える」というもの。それでいて前2作とは違う、新しい世界観を要求するのだからプレッシャーも相当だろう。しかしわれらがクドカンはやってくれる。この人はやっぱり、天才なのだ! 今回のゲスト、小池栄子夏帆小松和重の3人も予想を超える大健闘を見せる。ただし「あまちゃん」のにわかファンがうっかり観にくれば仰天するだろう。なにしろ、いままででいちばん「恐くて」「エグく」「イヤーな感じ」で、「どよーんと終わる」「地方にこんなの持って行っていいのか?」などと、キャストと演出家が口を揃える仕上がりだから。その上で、エンターテインメント性も最高級!

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ワザありの幕開けシーンは見てのお楽しみ。物語の舞台は脱サラしたマスター(生瀬)とその妻(小池)が営み、マスターの先妻の弟(小松)、PC依存症の常連客(池田)の巣くう喫茶店「どんづまり」。ここにセーラー服の少女、トキヨ(夏帆)が助けを求めて駆け込んでくる。ヤマザキという男に8年間監禁され、家族は1年ごとに殺されたのだという。彼女の言葉に驚き、助ける夫妻。それから7年後。里親(古田)のおかげで立ち直ってOLになったというトキヨが店を再訪。店を手伝いに入ることになり、マスター夫妻の運命は大きく揺さぶられることになる。

この後の展開は、知らないまま観てほしいので書けないのがツラいところ。モチーフになっているのは、実際にあったいくつかの連続監禁殺人事件だ。舞台は2階建てになっていて、ところどころに時制的には後になる裁判での証言が織り込まれていく。明らかになっていく過去が現在の物語や人間関係を豹変させ、万華鏡のように変えていく構成はいつも通りとも言えるのだが、その展開は予想外! マインドコントロールとか無責任な報道の怖さとか、湊かなえ級に人間の嫌な面をえぐってゾゾーッとさせ、胸クソ悪さも天井知らず。なのにくっだらないギャグやゲラゲラ笑えるせりふの掛け合いがひっきりなしに襲ってきて、翻弄される快感が最高潮に達しちゃうのだ。

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トキヨを演じる夏帆は、「みんな!エスパーだよ!」でヤンキーをやったなんてことは忘れ去られそうなほどの凄みを見せる。うん、腹をくくった女優は怪物だね(褒め言葉)。しかし、いちばん瞠目させられたのは、小池栄子の実力だった! 「真夜中の弥次さん喜多さん」のお初からずっと「できる」と思ってはいたのだが、クセ者〈三銃士〉相手にひるむどころか、互角以上の激しいツッコミとパワフルな表現力にうっとり! その演技には迷いもブレもない。このセンスと瞬発力は、なかなか身につけられるものじゃない。感服。

イヤーな胸クソ悪さをお腹いっぱい味わってなお「また観たい!」と思わせる〈ねずみの三銃士〉。まったく恐るべしである。

「万獣こわい」は4月8日までPARCO劇場にて上演中。以降、全国巡演あり。詳しい情報は特設ページ
http://www.parco-play.com/web/program/manju/

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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