コラム:若林ゆり 舞台.com - 第24回
2015年2月3日更新
第24回:インド映画の世界を舞台にしたマサラ・ミュージカル「ボンベイドリームス」は楽しくて深い!
歌とダンスという部分にも、日本バージョンならではの表現がいっぱいだ。ラフマーンの音楽は、「痛快な明るさと生命力に満ちた音で、バラードやポップスなど多様に盛り込んだ音楽」。そのインドらしい生命力、放出するエネルギーを日本人になじみやすい形で伝えるため、荻田は振付に、いま大注目のダンサー・振付家の原田薫と、演劇界にダンスで革命を起こす新進ダンスユニット“梅棒”を起用した。
「いわゆるボリウッド・ダンスを踏襲してもよかったんですけど、人数的に足りなかったり(笑)。ただ真似ても意味がない。それより、ボリウッドのダンスに触発されたイメージを振り付けていただけたらと。随所にボリウッド的なロボットダンスみたいなものも入ってはいるんですけど、あくまでもそれに触発されて日本人クリエイターが創るものになればいいですね。梅棒さんはエネルギッシュでガツガツした感じなので(笑)、インドの民衆のパワーを出すのにいい。原田薫さんは独特の美意識・センスをお持ちの方。シャープさとエキゾチズム、ミステリアスなムードを醸し出していただきたくてお願いしました」
実際に、このオリジナルな振付を踊っている浦井も、「各キャラクターの個性を生かしながら振り付けしていく原田さんと梅棒さん。本当に素敵です!」とご満悦だ。「夢を持つことの素晴らしさ、人とともに生きることの大切さ、そんなことをダンスからも感じられる、エネルギッシュな振り付けがたくさんあります。全キャストが稽古場で汗だくになりながら振り付けをどんどん覚えていくことで、不思議な団結感が生まれてきました。梅棒さんたちがみんなのために振り付けを動画で送ってくれて、復習しやすくしてくださったり、本当にみんなで作っている感覚があります。その団結力が、ダンスのパフォーマンスに出てきていると思いますし、自分もそれを感じながら踊っています」
梅棒の代表である伊藤今人と、原田薫にもにも話を聞けた。「僕ら梅棒は、お客さんが踊り出したくなるようなダンスという点で、インド映画のダンスにはすごくシンパシーを感じるんです」と言うのは伊藤。「だから、僕らが感じたインドのイメージを充てつつ、自分たちのキャッチーな、いいところを活かしていく感じですね。僕らはダンスを通して演劇をやっていて、台詞の代わりにダンスを使って演劇を作っているつもりなので、作品の文脈から振りを持ってくる。音楽に合った振付やニュアンスも大事なんですけど、ストーリーの演劇性をダンスにしたらどうなるか。そこを大事にやっているので、普通にダンスだけ習っていたら出ないような、ヘンな振りがいっぱい出てくる。そこを逆に持ち味にしたいんです」
原田は語る。「私もインド映画やダンスを見て、自分がインド風と感じる手の使い方だとか首の角度などを取り入れて振りを付けています。梅棒さんは男性的なパワフルな振りだし、稽古場でも『ヘイヘーイ!』とかいつもテンション高い感じで声を出して(笑)、盛り上げてくれていますね。梅棒さんだけのナンバーのときの振りはユニゾンで、すごく好きですよ。私は逆にユニゾンの振りが苦手なんです。ひとりずつ違う振りをつけて、それで絵を作るというようなほうが得意なので」。それに応えて伊藤は「薫さんの振付は繊細で、手足の角度や見え方っていうのを細かいところまですごく計算した振りなんですね。人と人とがどう重なっているかとか。全体を見渡したときにここはアシンメトリーに、というところでめっちゃ神経を使ってこだわって作っていらっしゃる。そこを梅棒はユニゾンでサボる(笑)」。まるでベターハーフ。この組み合わせで面白くならないはずがない!
インドでは観客が一緒になって踊るマサラ上映がお楽しみだが、本作でもフィナーレのカーテンコールでは、観客を巻き込んでの盛り上がりが見られそう。「最後はエンターテインメントとして大いに盛り上がっていただきたい」と荻田。「晴れやかさや生命力と対をなす形で虚無感や喪失感があり、その繰り返しがインドなのかもしれません。インド人がやれば素直にパワフルなものになったんでしょうけれど、現代の日本人は割と繊細というか、草食系というか。そういう人たちがやるとこんなにわびさびの世界になるのかと(笑)。わさびカレー的な感じですね(笑)。初演から13年ですが、その間に成長してきたインド映画の粋が、ぎゅっと凝縮したような作品になっていると思います」
「ボンベイドリームス」は1月31日~2月8日まで東京国際フォーラムで、2月24日・15日に大阪・梅田芸術劇場で上演。詳しい情報は公式HPへ。
http://www.umegei.com/bombaydreams/
全公演“マサラカーテンコール”開催決定! 公式サイトでは振付講座を大公開中!!
http://www.umegei.com/bombaydreams/campaign.html
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka