コラム:若林ゆり 舞台.com - 第21回
2014年12月22日更新
第21回:佐々木蔵之介が「ロンドン版 ショーシャンクの空に」で劇場に奇跡を起こす!
演出の白井晃とは、2011年にポール・オースターの「幽霊たち」で組んで以来、2度目のタッグとなる。
「白井さんは京都出身で、広告代理店にいて、それからお芝居をやって。僕と境遇が似ているんです。学生のころから好きでずっと白井さんの作品を観てきたし、自分の中でずっと勝手に先輩というかお兄ちゃん的に慕っていたところがあって。それで『幽霊たち』で初めてご一緒させていただいた。僕にはからっきしない(笑)すごくアーティスティックな知性をお持ちの方なので、そういうところに入ってすごく幸せだったんですが、お稽古は、いままででいちばん苦しかったかなあ。そのときも小説の舞台化だったのですが、今回のように完成した戯曲はなく、稽古場での試行錯誤の上で作品を作り上げていきました。だからものすごく大変だったけれど、その分上演できたときの達成感はハンパなかったです(笑)。千秋楽はこれで終わってしまうのかとさびしかったですね。僕が演劇の好きなところは、ひとつの作品に対して時間をかけるということだと思うんですよね。お金をかけることも大事なんですけど、時間をかけて作るというのはすごく大切なことなんです。稽古を含めて数ヶ月間ひとつの戯曲に向き合い続ける。映像の場合、オッケーが出たらそのシーンはもうやらなくていい。でも舞台はそうはいきません。そもそもオッケーなんて千秋楽になっても出してもらえない(笑)。でも僕はそれが演劇だと思っていて、それが自分の力にもなっていると思うんです」
佐々木にたいへんな思いをしてまで演劇と向き合い、やり続けたいと思わせる魅力は、「体験」することの面白さ、そして「奇跡のような瞬間」にあるという。
「演劇って客席と一体となって体験できるものなんですよ。舞台の上にいて、いまこの間、この空気、いま劇場に風が吹いた、という瞬間というのをたまに感じることがあるんです。自分が演じていながら、役でいながら同時に俯瞰で見ているところがあって、劇場全体がいま変わったっていう瞬間がある。芝居が真実になる瞬間。いま奇跡が起きたと思う瞬間なんです。いま本当にショーシャンクの刑務所の中にいて、まさにこんな気持ちになったという体験ができる。これは劇場ならではのものです。それは本当にその日、その時間にお客様が劇場に足を運んでくれて、劇場で起こる“事件”を共有してくれるからこそ生まれるものだと思うんです。そこが演劇の素敵なところだと思っています」
今年は、以前からコラボレーションを続けている劇作家・演出家、前川知大の脚本で歌舞伎「空ヲ刻ム者-若き仏師の物語-」も初体験。チャレンジは続く。
「チャレンジャーですねって言われるんですけど、できることならそんなにチャレンジはしたくないんですよ。ほんまはラクしたいよって思っているんですけど(笑)。でも、演劇に関してやり続けていかなきゃいけないとは思っていて。歌舞伎の舞台に立たせていただいたあの経験は、僕の貴重な、大切な宝物です。いままで自分が知っていた演劇とは違う現場にいるって感じがしましたから。まずよくあれだけの公演数を打てるな、とか(笑)。客席にいるのと舞台に立っているのとではものすごい違いがありまして。なぜ歌舞伎にあのような型があるのか。なぜあの衣装なのか、なぜあのお化粧をするのか。そういうようなことを間近で体験させてもらったのは大きかったですね。そんな機会を与えてくれた(市川)猿之助さんに心から感謝しています」
40代のいま、役者として充実しているという実感があるという。
「僕、演劇って身体測定だといつも思っているんです(笑)。知力・体力の測定なんだなと思うんですよ。とくに再演したときは如実で、初演のときはこのシーンでまだ息あがってなかったのに、もうこんなんなってるって(笑)。毎日、板の上に立ち続ける舞台というのは、やはり体が資本です。でも、苦労してあれだけ体を動かして、稽古を含めて本番で鍛錬をしていくと、そのぶん体を壊したりボロも出てきますけども、その代わりに多少の技術もついてくるんでしょうね。いま40代で、いまこの時期はまだまだ体力もありつつ、ちょっと内面が表現できるようなことも出てきたので、いまいい時期なのかなあと勝手に思っています」
「ロンドン版 ショーシャンクの空に」は12月29日まで日比谷のシアタークリエで上演、その後、全国5都市で巡演される。詳しい情報は公式HPへ。
http://www.tohostage.com/shawshank/index.html
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ヘアメイク:西岡達也(vitamins)
スタイリスト:勝見 宜人(Koa Hole inc.)/Katsumi Norihito(Koa Hole inc.)
Neil Barrett/ニール・バレット・ジャパン株式会社
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka