コラム:若林ゆり 舞台.com - 第18回

2014年10月31日更新

若林ゆり 舞台.com

第18回:アダム・クーパーが「雨に唄えば」でもたらしてくれる幸福感がハンパない!

そして、この舞台のハイライトと言えるのが、雨の中でタイトルにある名曲、「SINGIN' IN THE RAIN」を歌い踊るシーン。大量の雨を実際に、舞台上にじゃんじゃか降らせ、水しぶきをあげながら恋の喜びを表現するのだ(前列の方は濡れる覚悟を!)。

「水の量がとにかく多いから、最初は衝撃を受けたよ(笑)。それに傘を使うのが、実はとてもたいへんなんだ。かなりの重さがあるから、開いて持っているときに反対側に引っ張られないようにするのがひと苦労だし、上に投げて落ちてくるのをキャッチするにも重さが重要。だから、どの重さがいいかひとつひとつ、しつこいくらいチェックをしたよ。柄の持ち手の部分も街灯に引っかけなければならないから、大きさが大事。最初は用意されたものを使ったら、引っかからなくてね。投げ捨てたという苦い思い出がある(笑)。いろんな苦労はあるけど、踊っているときは心底楽しいんだ。夢が叶ったんだから、まったく苦ではないよ」

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アダム・クーパーは、元英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル。映画「リトル・ダンサー」で初めて知ったという人も多いだろう。だが、彼の名が世界に轟いたのは95年、マシュー・ボーンが手がけた斬新な作品「白鳥の湖」に出演したときだった。古典的バレエを男性同士の悲恋に仕立て、男性ダンサーのみで演じたこの作品で、ストレンジャー/白鳥を演じたアダムは世界を虜にしたのだ。

「僕にとっては信じられないくらい、とても重要な時間だったな。『白鳥の湖』を踊ったことで、僕の人生は変わったと思う。バレエから飛び出して、別のエリアへと出て行くことを許容してもらえる結果になったんだからね。僕に自信をくれたんだ。95年に『白鳥』をスタートしたときは、3週間の公演だった。その後、英国でツアーをして終わりだと思っていたんだ。ところがサウス・オブ・ウェールズでの公演2週目に、観客の列が劇場を囲んでいた。そんなこと、バレエの公演ではありえないことだよ。そこで僕たちは、自分たちが何かエキサイティングなことをしているんだって気づいたんだ。それからウェストエンドに行きブロードウェーに行き、L.A.から日本、オーストラリアへと、さまざまな場所で公演して、誰も認識していない領域まで広がっていった。うれしい驚きだよ。この舞台も同じさ。チチェスターで6週間公演して、それで終わりだと思っていたんだから。でも3年後に、僕はまだやれている!」

「白鳥の湖」以後はバレエだけではなくミュージカルにも活躍の場を広げ、演出・振付を手がけた「オン・ユア・トウズ」、「ガイズ・アンド・ドールズ」など、数々のヒット作を送り出している。エレガントな身のこなしとともに、ウットリさせてくれる歌声も美しいのだ。

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「バレエでもミュージカルでも、僕にとっては演じる上であまり違いはないんだよ。というのも僕はいつも、自分のエモーション、自分の物語をどのように観客に伝えるかに心を配っているからね。アプローチの仕方は同じだと思う。唯一の違いと言えば、体と一緒に声を使うことが認められるってことで、それによって表現する自由がより大きくなることだ。自分の隅々までを使い切る、という感じだよ。何作かのミュージカルを経験してからじゃないと、そんなことは言えなかったと思うけど。自分の声に自信が持てるようになって、より自由が与えられていると感じるようになったんだ」

話を聞いていて感じるのは、あふれ出るようなやさしさ、気さくさ、人のよさ。「白鳥の湖」で“俺ってカッコイイだろオーラ”をぷんぷんさせていた人物だとはとても思えない。

「『白鳥の湖』を見た人からはギャップがすごすぎるってよく言われた(笑)。でも、それって僕がいい役者だってことだよね(笑)。僕が演技を好きなのは、実際の自分とはまったく異なるパーソナリティを演じられる、ということが大きいんだ。何にでもなれる、そこが喜びなんだよ。それを人々に見てもらえて、人々に幸せだと感じてもらるなんて、こんなにいい職業はない。日本のみなさんにも、今回も絶対に楽しんでもらえると信じているよ」

「SINGIN' IN THE RAIN 雨に唄えば」 は11月1日~24日まで東急シアターオーブで上演。詳しい情報は公式ホームページへ。http://singinintherain.jp/

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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