コラム:若林ゆり 舞台.com - 第130回

2025年5月12日更新

若林ゆり 舞台.com
画像1

鈴木と言えば、「髑髏城~」の天魔王役で、同じ役を演じたほかの俳優たちとはまったく違う、大胆で思い切った解釈と演技が非常に印象的だった。あのときの役づくりはどうやって生まれたのだろう。

鈴木「あのときは、各Seasonに同じ天魔王を演じるそうそうたるキャストがいる中で『自分が自分のオリジナルとして攻められるポイントって何だろう?』と思ったときに、『ああ、いちばん“人”になれるな』と思ったんです。天の存在から『人』へと変貌できる。鎧を着て、強く着飾っていた人間が、剥がされることによって弱々しい人間になるというところが、いちばん自分の出るポイントだったかもしれません。そこに懸けた」

鈴木「とくに、最後の見せ場に懸けるがゆえに、そこに至るまでには大きく見せる作業というか、挑発してみたり、口が達者に回るというイメージを与えておいたり。そういう芝居を最後のための前振りとして使っていた部分もありました」

画像2

柚香もやはり「調べる」こと、そして「自分だから出せる色」にこだわるところは同じ。

柚香「平安の世では、いまより身分が意味をもつ暮らしをしていて、いまの状況とは全然違うじゃないですか。その背景を知った上で、『こういう人ならこういう暮らしをしているのかな』と想像するところから入りますね」

柚香「背景の知識があるかないかで、動き方や発音の仕方、話の聞き方もすべて変わってきますから。そういう背景がわかっていないと理解できないこともいっぱいあるので、まず自分が知らないことを埋める。その時代、その職業、その時代の常識、暮らし、食べているもの、一日の大体の動きやスケジュール。そうした情報があればあるほど、セリフの解釈にもいろいろな可能性が広がって、説得力にもつながると思うので。令和のいまを生きている自分の目線で見てしまうと、それは自分でしかなくなってしまいますから」

柚香「だから役を作っていく上で、『共感ポイントを探す』ことは重視しません。『ああ、そういうところも共感できるな』というのは自然に湧いてくることですが、そこを探しに行くことはしないですね。今回は、ありがたいことに立ち姿の描写などで当て書きをしてくださっているところもあって、そこは自分らしさを生かせるんじゃないかと思いますが、これまでのイメージとは違う面もどんどん見せていきたい。それが目標でもあります」

画像3

劇団☆新感線の作品としては異色作となりそうな本作。新感線らしさと新たな魅力について、鈴木は「両方、期待してほしい」と言う。

鈴木「今回は光ちゃん(柚香)との化学反応も、ファンタジーに寄せたつくりも劇団☆新感線として新たな挑戦ですが、『異なるいろいろなカテゴリー出身の俳優たちが集まって何が出せるか』というのも大きなテーマ。違うものを軸にしてきた役者が集まっているので、それぞれのカラーが生きてもいいし、それぞれのいた場所からちょっと逸脱して超える瞬間があるというのも化学反応だと思います。それぞれの良さを足して、それぞれがプラスにできたらいいなと、今回全員がそういう気持ちで臨むんじゃないでしょうか」

鈴木「劇団員それぞれのキャラや役割がわかりやすいという劇団らしさは、あの歌舞伎の『よっ!』という感じと重なるところですよね。そういう意味で、新しいながらも『やっぱりこれだよね』という劇団の色はちゃんとのっていると思います。僕の役はまっすぐぶれずに突き進む人で、神隠しにあったように姿を消した妻と娘を探す旅に出て、その道中で変な人たちと出会う(笑)。ユーモアがあるというのはこの劇団のよさですからね。それがあるからこそ、人のえぐみや鬼の恐ろしさを描いていても、心救われるようなシーンが感じられる。笑った場面の後にこう来るから胸にグッと刺さる、ということもあります

鈴木「いのうえさんは今回、『人のなかにある鬼』をテーマにするのではなく、しっかりと『鬼』そのものを描きたいという意図があったそうで、鬼のセリフから『何も鬼だけが残酷なわけじゃない』というメッセージを突きつけているのは素晴らしいと思います。でも、角度を変えれば『人のなかにも鬼ってあるんじゃないか』ということを考えさせられる瞬間もたくさんあるんです」

画像4

柚香にとっては、宝塚で同期の星組トップスター・礼真琴が本作と同じ時期、退団公演で劇団☆新感線の代表作「阿修羅城の瞳」に挑むというのも不思議な縁。礼に対するライバル心はある?

柚香「いや、ライバル心とは違うかな。(礼を)応援する気持ちももちろんありますし。素晴らしい作品になるだろうという思いもあります。礼真琴の作るものに期待しながら、その気持ちが『こちらはこちらで素晴らしいものを作らなきゃな』という意気込みにもなっています」

画像5

「鬼」を演じるにあたり、作品のなかで「鬼」の意味することを深く掘り下げ、体現し、少しでもたくさんのものを客席に届けたい。そんな思いが、柚香を輝かせるに違いない。

柚香「初めて台本を読んだときは、面白さに夢中になって。同時に『悪とは? 悪って何だろう』と思いました。悪と善。悪と愛。鬼の心理、人の思い……。鬼とひと言で言ってもいろいろな鬼がいますけど、架空の存在でありながら日本人なら誰もが知っていて、『鬼』と言われた瞬間その画が浮かぶぐらい身近な存在」

柚香「だけれども、それを芝居として、鬼である紅子として舞台の上に現れたとき、みなさんに『鬼ってこういう存在だったのかもしれない』とか、『そういうことだったのか!』という刺激を与えられるような鬼を描いていきたい。それは一面的なものではなくて、そこには本当に多面的で複雑で、重い葛藤がいろいろあるので、それをより鮮明に、色濃く、印象深く、説得力をもってお客様の心にお届けしたい。お客様の脳裏に焼き付くように強烈な印象を与えたいと、どこまでも欲張って役づくりをしていきます」

2025年劇団☆新感線45周年興行・初夏公演“いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective”「紅鬼物語」は5月13日~6月1日、大阪・SkyシアターMBSで、6月24日~7月17日、東京・シアターHで上演される。詳しい情報は公式サイト(https://www.vi-shinkansen.co.jp/akaoni/)で確認できる。

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

映画ニュースアクセスランキング

本日

  1. 竹内涼真×木村文乃、SPドラマ「看守の流儀」で初タッグ 「このミステリーがすごい!」大賞作家の小説を初映像化

    1

    竹内涼真×木村文乃、SPドラマ「看守の流儀」で初タッグ 「このミステリーがすごい!」大賞作家の小説を初映像化

    2025年5月11日 05:00
  2. 【「かくかくしかじか」評論】「描け!」という言葉と情熱を捧げる大切さが心に響き深い余韻を残す

    2

    【「かくかくしかじか」評論】「描け!」という言葉と情熱を捧げる大切さが心に響き深い余韻を残す

    2025年5月11日 08:00
  3. 「エヴァンゲリオン」&「うまい棒」が再コラボ!しん・えう゛ぁんげりおんうまい棒が発売決定

    3

    「エヴァンゲリオン」&「うまい棒」が再コラボ!しん・えう゛ぁんげりおんうまい棒が発売決定

    2025年5月11日 12:00
  4. 【「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」評論】ミラーの眼差しを共有させる、ウィンスレットの名演が浮き彫りにする戦争の傷跡

    4

    【「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」評論】ミラーの眼差しを共有させる、ウィンスレットの名演が浮き彫りにする戦争の傷跡

    2025年5月11日 09:00
  5. 【「クィア QUEER」評論】バロウズとカート・コバーンが時代の壁を越えて綴った“貴方らしさ”

    5

    【「クィア QUEER」評論】バロウズとカート・コバーンが時代の壁を越えて綴った“貴方らしさ”

    2025年5月11日 10:00

今週