コラム:若林ゆり 舞台.com - 第129回
2025年4月8日更新

映画の楽しさを別手法で味わえてアドレナリン爆発! 劇団四季の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」ミュージカル版は期待を裏切らない!!

撮影:荒井健
ブロードウェイもウエストエンドも、いまやミュージカル界は映画原作が花盛り。なのにあの作品はまだなのか、と、待っていた人も多いと思う。もちろん、映画ファンなら繰り返し見ていて当たり前、誰もが愛してやまないSF映画の金字塔「バック・トゥ・ザ・フューチャー」である。その待望のミュージカル版は、ロバート・ゼメキス監督、共同脚本のボブ・ゲイルらオリジナルの映画を手がけたスタッフが再集結して練り上げ、2021年にロンドン・ウエストエンドで開幕。23年からはブロードウェイにも進出し、観客の大喝采を浴びてきた。
そのミュージカルが、ついに日本でも幕を開けた! 日本版を上演するのは、パフォーマー、スタッフともに最高級のクオリティを誇る劇団四季だ。4月6日の初日に先がけて行われた公開最終稽古と、ロバート・ゼメキス、ボブ・ゲイルら海外スタッフの取材会、そして初日のカーテンコールに参加することができたので、レポートをお届けしたい(これから観る人の楽しみをなるべく奪わないよう配慮するが、ネタバレとなる部分もあるので要注意!)。

撮影:阿部章仁
まず、開幕前に劇場内のスクリーンに「観劇の際の注意事項」が出るのだが、そこからもう「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の世界! フフッと笑ってしまう。まるであの懐かしいUSJのアトラクションに乗り込んだような気分になっていると、聞こえてくるのはお馴染みの、あのナンバーだ! 劇団四季は録音で上演されることも多いが、今回はオーケストラボックスがあって生演奏。

撮影:荒井健
そして劇場は1985年の世界へと観客をタイムスリップさせてみせるのである。登場するマーティ。そこはドクの部屋だが、ドクは不在。映画と同じシチュエーション、でもディテールが違っていて「なるほど!」と思わされる。やはり映画のクリエーターが関わっているというのは、映画ファンにしてみれば歓喜しか呼ばない。ファンも思わず溜飲を下げて楽しめる、舞台ならではの改編やアレンジ表現が満載なのだから。

撮影:荒井健

舞台がカリフォルニア・ヒルバレーの街中へと移り、マーティの生活が見えてくる。スケボーで大活躍とはいかないが、マーティはものすごくマーティだし、父ジョージは激しくジョージ、ジャイアンみたいなビフも「これこれ!」と膝を叩きたくなる。「いかにも」という感じのミュージカルナンバーが、それぞれのキャラを見事に立たせる。
その表現手法は、100%、ミュージカルだ。映画的な手法が使えない分、ミュージカルの特異な表現を「これでもか」と駆使し、映画の名場面をさらに濃厚な「ザ・名場面」として展開する。アンサンブルのコーラスパフォーマーたちがキャラクターの分身になったり、「え、その分身!?」というモノになりきって、バスビー・バークレー風や50年代風バックで歌い踊ったり。盛り上がるし、かなり笑える。つまり、これはどのミュージカルにも負けないくらい「ザ・ミュージカル」な作品になっているのである。

撮影:荒井健
ミュージカル化でいちばんのハードルは、デロリアンだったのではないか。みんなが期待と不安で胸をいっぱいにしつつ待っていたシーンだろうし、狭い舞台を実際に時速88マイルで疾走するわけにはいかない。だが友よ、この再現度、疾走感はすごいぞ。ここではミュージカル的手法ではなく、マジック的な仕掛けと高度な映像・照明・舞台機構を駆使した演出が衝撃的な特殊効果を生み出し、映画製作陣の面目躍如! さらに俳優の演技が加わって、驚きのタイムスリップを体験させてくれる。あり得ないことを虚構のエフェクトで「現実」として感じられる、この感覚が味わいたかった。

撮影:荒井健

撮影:荒井健
この作品には舞台版「ハリー・ポッターと呪いの子」にも携わったイリュージョニスト、クリス・フィッシャーが力を発揮していると聞けば、合点がいく。展開としてはドクが「危機」に陥る状況に改編が見られるが、それもまた「なるほど!」だ。当然ながら、終盤の時計台のシーンも、期待を裏切らない!
マーティがタイムスリップした30年前の世界で若き日のパパ、ママに出会い、ふたりの恋を、そしてドクの危機を救おうと奮闘し、元いた未来へ帰る、というストーリーはもう、そのままだ。もちろんマイケル・J・フォックスがダンスパーティのステージで魅せた「Johnny B Good」も映画のままの音楽を生かし、ミュージカルシーンとして完璧に再現。マーティ役の俳優はエレキギターも猛特訓して自分で弾いている。

撮影:阿部章仁
そして、ドクだ。もしかしたらこのミュージカルで、最も映画と印象が違って見えるのはドクかもしれない。いや、人格はまったく変わっていないのだが、よりお茶目に、パワフルに、エキセントリックに、コミカルに、思慮深く、夢見がちで、やさしく、懐の深い、でもどこか子どもっぽいような面が見えて、より深みが増しているのだ。映画でのクリストファー・ロイドとはちょっと異なるアプローチで、演じる俳優もやっていて楽しいに違いない。とくにそれが顕著なのが、2幕で彼を表現するミュージカルナンバー「21 st Century」や「For The Dreamers」。ドクをより一層好きになること間違いなし。

撮影:荒井健
あとは自分の目で確かめて。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を愛してやまない映画ファンよ、ぜひ劇場で舞台にしか味わわせてもらえない、ワクワクドキドキとときめきと興奮に満ちた「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を体験あれ!
さらに次ページでは、ロバート・ゼメキス、ボブ・ゲイルら創作者が映画とミュージカル、両方の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を語る。
コラム
筆者紹介

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka