コラム:若林ゆり 舞台.com - 第116回
2023年7月6日更新
第116回:「ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル」でクリスチャン役を演じる、甲斐翔真のピュアな成長にキュン!
帝国劇場で幕を開け、豪華絢爛かつ革新的なステージングで観客の熱狂を呼んでいる「ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル」。前回のバズ・ラーマン監督編(https://eiga.com/extra/butai/115/)に続くインタビュー第2弾でフィーチャーするのは、映画版でユアン・マクレガーが演じた若き作曲家・クリスチャン役を、井上芳雄とダブルキャストで演じている甲斐翔真。ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」のロミオ役や「October Sky -遠い空の向こうに-」のホーマー役などで急成長を見せている若手注目株だ。ミュージカル愛の強さにも定評のある彼に、開幕直前の貴重な時間を割いてもらい、話を聞くことができた。
まずは、映画版との出合いから聞いてみよう。
「オーディションの話を知って初めて見たんですが、いっぺんに魅了されて。『なぜいままで見ていなかったんだろう』と思いました。映像であれだけの表現をするのは、非常に革命的なことだったと思うんです。しかも急にエッフェル塔のそばで踊るみたいな(笑)、ある種ぶっ飛んだ演出が炸裂していて。でもその芯にあるドラマみたいなところはけっして外さずに、とってもバランスの取れたファンタジーであり、深い人間ドラマでもある。ほかの誰にもできない作り方なんだろうなと思います。僕はラーマン監督の『ロミオ&ジュリエット』もすごく好きで。シェイクスピアの古典をあんな風にアレンジして、この現代に生きる我らの心に刺さる作品にして、なおかつ『そんな演出する!?』みたいな大胆な演出も満載(笑)。でも、そこにも無理がないんですよね。稽古中、バズ・ラーマンさんが来日してくださって、お会いできたことはすごく嬉しかったです。ハリウッドスターのようなオーラがあって緊張しましたが、作品に対する思いを感じましたし、僕らの稽古を見てとても喜んでくださいました」
もちろん、映画を見て彼が好奇心をそそられたのは「このすごいファンタジーの世界を舞台ではどう表現するんだろう?」というところだった。そして甲斐は、いまから約1年前にブロードウェイで舞台版を観劇。
「見たらもう『なるほど!』と。圧倒されました。『あの華麗な世界を舞台上で表現すると、こんなにも素晴らしくなるんだ』と。映画と違うところもあるんですけど、ミュージカル化した意味をすごく感じるステージでした。映画からこのミュージカル誕生までの間に誕生した曲も何曲か使用されていて。そこはまた映画ファンの皆様も、違う感動を味わえると思います。世界的に人気のある映画がこんな風に進化しているというのは、映画ファンの方々から見ても楽しみのひとつになるんじゃないかな」
このミュージカル版は、既存の曲を使うという範疇にとどまらない。数々のヒット曲の短いフレーズが絶妙にリミックスされる「マッシュアップ」という手法などを駆使し、音楽的な醍醐味も最高潮だ。
「マッシュアップミュージカルと聞くと、既存曲をどんどんメドレーみたいにやっていくというイメージですが、それ以上です。最初にミュージカルスーパーバイザーが曲を組み合わせるとき、まず、それぞれの歌の歌詞を並べたというんです。意味が通らないところがないようにまず歌詞で考えて、そこから曲を選んでいったんだそうです。つまり、その曲のなかに伝えるべき中身がちゃんとあるということ。日本語の訳詞が素晴らしいから、『ちゃんとストーリーが音楽によって進んでいってるな』ということをものすごく感じるんですよね。そして劇場に来てくださったらわかるんですけど、スピーカーの数が多い。びっくりしますよ。映画館でよく爆音上映ってあるじゃないですか。それに近い体験を劇場でできるんです。生身の人間が歌いますし」
ミュージカル表現のすべてがこれでもかと盛り込まれた作品だからこそ、スタッフ、俳優たちに要求されるものの多さは想像に難くない。
「本当にやることは多いですね。音楽と演出と振付、フォーメーション、美術も照明もすべてが合致して、すべてが噛み合ったときの破壊力を、とてつもなく感じています。そのためにはやはり、とても細かい確認が必要なんですよ。立ち位置も舞台上の10番と11番の間の間とか(笑)。左足が10番とか。出演者の数も多いので、集中力をもってやらないと、目指している歯車のかみあい方にはならない。この作品の魅力を知っているから、『気は抜けないな』と思います」
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka