コラム:若林ゆり 舞台.com - 第114回

2023年5月29日更新

若林ゆり 舞台.com
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宮沢が「俳優になりたい」という夢をもったのは、子どもの頃から大好きだったドラマに憧れたことからだった。

「子どもの頃から母がドラマを見るのが好きで、僕もドラマのあの世界観、現実離れをしているところに憧れていたんです。僕が学生の頃には『プロポーズ大作戦』や『花より男子』など面白いドラマがいっぱいあって、『あの世界観に入ってみたい』と思ったのがきっかけです。それからだんだんお芝居に興味が湧いてきました。役者としてのデビューは2017年です。自分のなかではかなり遅いデビューだってことは自覚していたんです。それで、同世代の役者たちとまともに勝負しても敵わないから、『自分にしかできないお芝居を、キャラクター作りをやって行こう』と思ったので、僕はあのタイミングでよかったと思うんですよ。ほかの人はもっていない何かを磨くことで、僕はやってこられたと思うので」

では、いま感じる俳優としての醍醐味は?

「やっているときは大変です。でも、好きなのは『自分を削ってやる』みたいなところですね。何回も自分の心が折れそうになったり。体も心もパンクしそうになったこともありますが、最終的に自分の関わった作品が世の中に出るときに『がんばってよかったな』と心から思う。何かを生み出せたという達成感がありますし。映像だったらずっと残るものだから、いつまでも作品は残る。舞台は客席で見た方の記憶に残るものですよね。何か残るものを作れたという喜びがあるから、続けられるんだろうなと思います。そういう達成感を確かに感じられたのは、やはり『エゴイスト』の龍太です。台本は一応あって、ストーリーやシーンごとに表現すべきことというゴールは決まっていましたが、そこにたどり着くまでの道のりは、その場で生まれた言葉や感情で紡いでいきました。それもあってか、自分と龍太という役がすごく近いところでリンクして。龍太の気持ちをすごく理解ができたし、龍太を通して感じるものがたくさんあったので、『ああ、役に入るっていうのはこういうことなんだ』と感じられた作品でした。それが日本だけでなく、アジアで評価されたことで、『やっていたことは正しかったんだ』と思えてうれしかったです」

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俳優としての欲がどんどん膨らんでいる宮沢にとって、舞台は「毎回緊張するし、失敗もするけど、やらなきゃいけないもの」なのだという。

「舞台に立つまでは毎回大変だし、幕が開いても舞台に出ていくときはすごく緊張するので、なかなか一歩目を踏み出せないんです。でも稽古と公演の期間、ずっと役と向き合うことで役を深く掘り下げることができますし、いざ出ちゃうとアドレナリンがすごい。“ハイ”がどういう状態かわからないですけど、おそらくこれが“ハイ”だろうという高揚感がありますね。自分たちで2カ月稽古をしたものをみなさんに披露できるという喜びと、すぐ生のレスポンスをもらえる喜びがありますから。お客さんは面白かったら笑ってくれるし、感動したら涙を流してくれる。目の前で誰かの心を動かしているという実感を、舞台の上でつねに感じていますので。映像だとだいぶ経ってからでなければリアクションをもらえないわけですし、みなさんの顔を見て芝居ができるというのは、特別な醍醐味ですね」

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俳優として独特の輝きを放ち、成長し続ける宮沢にとって、今回の舞台も大きな意味をもつものになるだろう。やたらと計画を立てる純平にちなんで「いま、計画していることは?」と尋ねると、「世界へ行きたい」という答えが返ってきた。

「いつか世界で仕事がしたいという思いはずーっともっていて。僕は英語が話せますし、先日も香港でアジア・フィルム・アワードに参加して(「エゴイスト」で助演男優賞を受賞)、よりそういった思いを抱きました。日本は島国だからなかなか外へは行きづらい部分もありますが、そこを思い切って踏み出せる勇気は出てきたので。タイミングが合えば、できれば30代のうちには挑戦したい。自分の育ててもらった環境や、俳優として恵まれているところを生かしていければいいなと思っています」

THEATER MILANO-Zaオープニングシリーズ/COCOON PRODUCTION 2023「パラサイト」は6月5日~7月2日に東京・THEATER MIZANO-Za(東急歌舞伎町タワー6F)、7月7日~17日に大阪・新歌舞伎座で上演される。詳しい情報は公式サイト(https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/23_parasite/)で確認できる。

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筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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