コラム:若林ゆり 舞台.com - 第113回

2023年3月14日更新

若林ゆり 舞台.com

第113回:驚異の再現度に萌えまくり! ミュージカル「SPY×FAMILY」ゲネプロレポート

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3月8日、いよいよミュージカル「SPY×FAMILY」の幕が開いた(3月29日まで。4月兵庫公演、5月博多公演もあり)。もちろん原作は、遠藤達哉氏が2019年3月より「少年ジャンプ+」で連載、アニメ化もされて爆発的な人気を誇る同名コミックだ。これが、日本ミュージカル界の最高峰とも言うべき東宝ミュージカルで、帝国劇場(帝劇)のステージでどう舞台化されたのか。初日を前に公開ゲネプロを観劇する機会を得たので、ここにレポートしよう。公開されたゲネプロのキャストは以下の通り。

ロイド:鈴木拡樹森崎ウィンとダブルキャスト)/ヨル:唯月ふうか佐々木美玲とダブルキャスト)/アーニャ:増田梨沙(池村碧彩、井澤美遥、福地美晴とクワトロキャスト)/ユーリ:瀧澤翼岡宮来夢とダブルキャスト)。

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SPY×FAMILY」は、凄腕スパイのロイドと他人の心を読める超能力少女アーニャ、殺し屋のヨルが秘密を隠し持ったまま、それぞれの目的のために偽装家族を形成してミッションに挑むという物語。シリアスとコメディが共存する世界観、非日常的でありながらわかりやすく魅力的なキャラクター、アクションとスリル、カッコよさとかわいさ、偽装家族のなかに生まれていく絆などなど、あらゆる「萌え」要素が詰まっているところが原作の魅力だ。このミュージカルは「原作の魅力を、舞台の総合芸術をもってあますところなく表現する」というミッションに、果敢に立ち向かって素晴らしい成果を上げている。

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幕開けに広がっていたのは、瓦礫の山ができたグレーで陰惨な戦争地。爆弾や銃撃の音に交じって、子どもの泣き声が響いている。アンサンブルがコロス(歌う語り部)としての役割を果たしながら、かなり激しいダンスを見せる。音楽はスタイリッシュでジャジーな感じ。そこにロイドが登場し、スパイとしての立場、そして「よりよき世界のために」身を捧げる決意を歌い踊る。ここから、猛スピードの展開だ。

舞台では建物のパーツが踊るように回り、出入りし、形を変えてそれぞれの場面にピッタリのセットを形づくっていく。帝劇という舞台の機能、機構を最大限に活かしたステージングで、綿密に計算された展開は、物語を円滑かつスピーディに走らせることに大きく貢献。LEDや映像も駆使してコミックらしさを演出し、時にはアナログな着ぐるみという奥の手も使う。「よりよき舞台のために」というミッション遂行にかけたスタッフの心意気が見えるようである。そして変幻自在にその時々の役を演じながら物語を伝え、ミュージカルの魅力を担ったアンサンブルの力が作品を支えている。

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とにかくこの作品で何より目を見張るのは、原作の再現度だ。ここは原作ファンも大満足、100点満点を付けられるクオリティなのではないか。

まずキャラクターだが、メインキャスト全員、原作のページから飛び出してきたよう。生きて感情をもったロイドが、アーニャが、ヨルが「そこにいる!」と感じさせてくれること請け合いなのだ。

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ロイドの鈴木拡樹は顔もスタイルも原作にそっくり。しなやかな身のこなしで、作品のトレードマークでもあるモスグリーンのスーツが似合うことといったら! 声も細めで歌では高音がやや厳しいところはあるが、隙のない完璧主義者の顔と、一途だからこそ表出する動揺やクセとのギャップ表現も完璧でストレスなく笑わせる。森崎ウィンは「ジェレミー」や「ピピン」の主演でその身体能力、ミュージカル総合力の高さは実証済みなので、こちらも楽しみにしたい。

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アーニャにも、これほど満足できるとは驚きだ。とにかくかわいい! オーディションを勝ち抜いてきただけあって、歌も芝居もダンスも、非常にうまい。大きなステージの真ん中で、小さな体をいっぱいに使って一生懸命歌い踊るアーニャの姿に、「この世界で精一杯生き抜こうとする」アーニャのけなげさ、いたいけさが浮き彫りになって見えるのだ。その上、コメディセンスも抜群でしっかりボケる。これはもう、たまりません。初日前会見では4人のアーニャが顔を揃えたが、いずれ劣らぬ茶目っ気とかわいさだし、何より4人とも、役を楽しんでいるという余裕さえ感じられたのがビックリだった。小さな子にはしんどいくらい、クリアしなければならないミッションも多かったはずなのに。恐るべきプロたち。できれば4人とも見てみたいと心から思う。

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ヨルの唯月ふうかも本当に、「以下同文」としたいくらい完璧なキャラ再現力だ。一見、地味で真面目で控えめな公務員といった風情の彼女が突如、殺し屋の本能を発揮するシーンは、ハッとするほど刺激的で面白い。「シスターコンプレックスの塊」のような弟ユーリとのやりとりも、原作のニュアンスをそのまま表現できていてニヤニヤが止まらなくなる。やはり会見では佐々木美玲の再現度も完璧と思えたので、期待が高まる。

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そのほかユーリ、フィオナ(山口乃々華)、フランキー(木内健人)、ヘンダーソン(鈴木壮麻)、シルヴィア(朝夏まなと)らのキャラクターづくりも、きっと原作ファンを感嘆、驚喜させるはずだ。

ストーリーテリングの面でも原作へのリスペクトがものすごく、製作発表で演出のG2が表明していたように「原作ファンを満足させながらミュージカルファンにも楽しんでもらえる舞台を」という思いがあふれている。そのため、やや説明的なセリフや表現が多くなっているが、原作にまったく触れていない人も楽しめることは間違いない。ミュージカルならではの音楽に乗せたエモーション表現はどちらかというと少なめな印象だが、原作がもつ軽やかなチャームは保たれたと言える。「世界に誇れる日本発のオリジナル・ミュージカル」という任は立派に果たせたのではないか。

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ただし丁寧に物語りすぎて、スピード展開をしても「ここまで!?」というところまでしかストーリーが進まなかった。贅沢を言わせてもらえるなら、このすべてを1幕に詰め込んで、2幕でイーデン校の「学園編」も見たかったと思う。「そんなことできるわけないでしょ!」とツッコまれるのは承知で、そこまで求めたくなる仕上がりだったということなのだ。

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この原作が好きなら、ミュージカルが好きなら、幸せを噛みしめる観劇体験となるはず。あのキャラが、あのキャラがもたらす「ギャップ萌え」が、思う存分楽しめる。アーニャが危険なミッションに「わくわくっ!」と感じるように、観客が「わくわくっ!」をめいっぱい楽しめる、とびきりのエンタテインメントだ。

ミュージカル「SPY×FAMILY」についての情報は公式HP(https://www.tohostage.com/spy-family/)で確認できる。

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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