コラム:若林ゆり 舞台.com - 第11回
2014年7月18日更新
第11回:今年大ブレイクしている映画界の寵児・池松壮亮が「愛の渦」の監督と再タッグ! 「母に欲す」で舞台でも魅力炸裂中!
三浦大輔が手がける“ポツドール”の舞台は、目を背けたくなるような人間の本質を突きつけるものが多かった。でも、本作は違う。東京で仕事もろくにせず、母からの仕送りを激安デリヘルで使ってしまっていたダメ兄(峯田和伸)と、東北の実家に残ってまじめに働いている弟(池松)が、それぞれ向き合う母の死。そして新しい母への戸惑い、揺れる思い。兄弟や父親との間の、言葉にできないような複雑な感情。男たちが求める"母性"のすごさ。それらが生々しく発露するドラマに、のめり込まずにはいられない! ヒリヒリしながらも笑えて、温かい涙が頬をつたう。そして、いつまでも離れがたい余韻……。何なんだろう、池松が存在すべてから醸し出す、泣きたくなるほどのリアリティは! 濃密で贅沢としか言いようがない舞台だ。峯田と池松のケミストリーがもう、絶品!
「これまでの三浦作品とは見方によっては間口が違うんですけど、本質は変わらないし面白い。やっぱり間違いなく三浦作品ですよね。稽古場では、『三浦さんが言わんとすることを全員がクリアしたら絶対に面白いじゃん』って思えることがすごく幸せでした。三浦さんはどんなにキレイな話をやろうとしても、キレイなところだけをすくい取るのは無理(笑)。でも人間なんて矛盾だらけですからね。その矛盾を肯定できるやさしさをもっている気がするんですよ。すごく純粋で心がキレイな人なので、その人なりの人間の描き方、家族の描き方をしてくれるんだと思ってます。三浦さんはあまりお芝居を信用していない。でも、人間のことはすごく信じてるんですよ! そこがすごく面白い。ちゃんと孤独で、この人のためにやらなきゃって思わされる現場になりました。(兄役の)峯田さんとも、三浦さんの世界にしっくり来る2人だからか、初めてという気がしなかった。この作品では男にとっての母親というものが描かれているんですけど、そこも共感できると思います。僕にとっても確実に、母親の存在は大きいですから」
偶然だというが石井裕也監督の「ぼくたちの家族」でも、池松は2人兄弟の弟役を演じ、母親への愛を表現している。一時は“家族”をテーマにした作品に抵抗があったと言うが、それは乗り越えたそうだ。
「それはね、ドキュメンタリーの力を知っているからです。ホンモノの人たちがいるのに、ニセモノの役者たちが勝てるのかなって部分があって。でも、そこを石井さんのもとできちんとクリアできたので、いまは家族ものに対して抵抗は感じていません。もっと家族のことを考えろ、って言われているような気もしますしね」
いま、ものすごい勢いでブレイクしている状況については「あんまり何も思っていないですね。やっていることは変わらないし」と気負いがない。では、仕事が波に乗って欲が出てきたかと問うと、「逆に減ってきた」という答えが返ってきた。
「僕は高校まで野球をやってたんですけど、それが終わってどうしようってなったとき、これ(演技)しか残っていなかったんです。いままでは『トム・クルーズ知らなかったんですよね』とか生意気に言ってたんですけど、ずーっと逃げてる感じがして。自分をギリギリのところへ追い込まなきゃ、逃げ場をなくさなきゃって思ったんです。東京に出てきて大学の映画監督コースに4年間行きました。そこまでして、卒業しても変わらないままだったらもう終わりだなと思って。どこか1人で闘わなきゃいけない職業ですから、大学時代はひたすら映画を見て、感覚を確かめていました。自分の感覚を信じるしかなかった。この人とは絶対に合うはずだ、とか。それで結果、自分が好きだなと思った人たちから、見事にいいタイミングでお話をもらったのが去年だったんです。不思議なほどつながりましたね。最近すごく思うんですよ、恩だけでこの仕事を続けられたらどれだけ幸せだろうなあって。自分ではなくて、誰かのためにやるだけですって言い続けられたらなって。でも、そうもいかない。そういうことも大切にしながら本能に従って、また新しい人たちに会えていければいいなと思っています」
長足で進歩し続ける池松壮亮の“いま”を、ぜひとも目撃すべし!
「母を欲す」は7月29日まで、PARCO劇場で上演中。8月2日・3日に大阪・森ノ宮ピロティホールで上演。詳しい情報は公式ホームページへ。
http://www.parco-play.com/web/program/hahanihossu/
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka