コラム:若林ゆり 舞台.com - 第107回

2022年6月2日更新

若林ゆり 舞台.com
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今回は、「ノートルダムの鐘」のカジモド役で高い評価を得たミュージカル俳優であり、「春のめざめ」と「アイランド」の演出でトニー賞にノミネートされた(35歳以下で2度の候補入りは史上初!)若手演出家、マイケル・アーデンの演出でどう生まれ変わるのか。

「いままでの『ガイズ&ドールズ』は、場面場面でセットが入れ替わっていたと思うんですけど、僕たちが上演する帝劇にはひとつ大きなセリがドーンとあって、そこにほとんど全部が入っているんです。地下が救世軍で、その上が(ナイトクラブの)ホットボックスで。チーズケーキのおいしいレストランがあったり、花屋さんがあったり。狭いなかに救世軍とナイトクラブがある、その対比も面白いし、それが上がったり下がったり、グルグル回りながら展開していく。ワクワクしますよ!」

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演出家としてのアーデンは、井上の目にどう映る?

「もともと俳優さんだからか、ニュートラルというのかな。稽古はいつも『やあ、最近何か面白いことはあった?』みたいなところから始まって、『じゃあやってみよう。こうかな、ああかな?』と、本当にちょっとずつ積み重ねていく。いままで一緒に仕事をした誰よりも『決めつけない』演出家ですね。僕らと同じ目線でいてくれます。たぶん、マイケルも日本で初めて演出をするから、適度に緊張していると思うんですよ。普通、そういうのって隠そうとするじゃないですか。自分なんかは『緊張しているのがバレないようにしなきゃ』と取り繕って、いいところを見せたがっちゃうんですけど(笑)、マイケルは過剰な自負や見栄みたいなものが全然ないから、親しみやすく、とてもやりやすいんです」

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それでいて、セット以外でも演出は非常に独創的で、細部にまで愉快なアイデアがいっぱいだという。

「僕が面白いなと思うのは、例えばオープニングでいろんなキャラクターが出てきて、街の活気を表しているシーン。そこでひとりひとりにちゃんとストーリーを与えているんです。実は、スカイはサラとそこですれ違っていたりするんですよ。サラは救世軍のビラを配っていて、僕はそれをもらって『これどうしようかな』と思っていると、女の子たちが『ハ~イ』って寄ってくる。その後、ビラを僕から受け取った女の子は地下鉄に乗って、そのビラの住所を探して伝道所を見つけて、ひとりで迷子になっちゃうんだけど、探しに来た仲間たちが見つけてくれて『よかったー』という、その流れをずーっと後ろでやっているんですよ。だから舞台上で、どの登場人物も生きている。全部のシーンでこうなっていったら、どんなに生き生きした『ガイズ&ドールズ』になるんだろうと思うと、すごく楽しみですね」

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東京藝術大学の音楽学部声楽科に在籍中、「エリザベート」のルドルフ皇太子役でデビューして以来、一貫して日本ミュージカル界のトップを走り続けてきた井上。最近ではバラエティ番組のMCとしても引っ張りだこだが、常に心にあるのは「日本のミュージカルがもっと観客を増やし、世界でも通用するようになってほしい」という思いだという。スカイは人生を賭けた、イチかバチかの大勝負に出るが、井上自身は人生の大勝負に出たことはあるのだろうか?

「毎回出ていますね、仕事では、大勝負に。この作品だって大きな意味ではそうですし、新しい仕事をやるとき、別のジャンルに挑戦するときなんかは、勝算がないことがほとんどですから。実際のギャンブルは、僕はまったくやらないんですけど、仕事上では賭けまくり、かなりの勝負師です(笑)。賭けみたいに勝った、負けたの結果がはっきり出ないから、良いのか悪いのか難しいところはありますけど、だからこそやり続けられるというところもあるのかもしれない。『あの人から見たら負けかもしれないけど、俺は勝っているからな』って思えますからね」

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スカイとのいちばんの共通点は、運命の女神さまにめちゃめちゃ愛されている、というところかも。

「ラッキーな人間だと思います、僕は。これまでやってこられたいちばんの理由は、幸運だと思います。幸運と出会いと、いろんな人たちの親切や助けがあったからこそ。自分も頑張っていないわけじゃないけど、それ以上にいろんなものをもらっている気がするので。だから、何とかして恩を返さなきゃ、残りの人生で。それか後の世代に託さなきゃ、と思います。日本のミュージカルを世界に、という夢は僕の代で結実するかはわからない。でも、『千と千尋の神隠し』はミュージカルではないけど、日本にあるコンテンツを使って舞台化するということで大きな成果を得たと思います。そういう意味では、また新たな水脈が見つかったような気がするんですよね。そこに自分たちが培ってきたミュージカルのノウハウを積み込めると思いますし、次の代かそのまた次の代くらいで形になればいいなぁと思います」

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そろそろ井上を“ミュージカル界のプリンス”ではなく“キング”と呼ばなくてはならなくなる日が来ているのではないか。

「いやいや(笑)。僕はいつまでもプリンスっぽい感じで行ったほうがいいんじゃないかな。僕の性には合っているというか。ネタとしてもその方がおいしいし(笑)。キングって言うとネタにしづらいじゃないですか(笑)。だからツッコまれながら、プリンスとしていろんなことをする方がいいなと思っています」

ミュージカル「ガイズ&ドールズ」は6月9日~7月9日に東京・帝国劇場で、7月16日~29日に福岡・博多座で上演される。詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/guys_and_dolls/)で確認できる。

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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