コラム:若林ゆり 舞台.com - 第10回
2014年7月8日更新
第10回:「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」で天才詐欺師を演じる松岡充はサービス精神の塊だ!
映画ではトム・ハンクスが演じたハンラティ役は、ミュージカル界きっての実力者、今井清隆。「親子でもあり、友達でもあり、恋人でもあるという関係性というのは、僕と今井さんなら地で行けます」と松岡。
「今井さんはもちろんスキルが素晴らしい方ですし、何年か前にご一緒したときに、いつか一緒にお芝居をしたいと話していて。すごく仲よくなったんですよ。結果的に、こういう形で共演できることになって、運命的なのかなとも思いますね。稽古中に様子を見ていると、ずっと焦っているんですよ、今井さん(笑)。『大丈夫なの? ちょっと松岡くんどうなの?』とか、いつも落ち着かない。『俺だけ置いて行かれてるよぉー』って、まさしくハンラティ(笑)。2人の関係性というところでもバッチリです(笑)」
共演者との稽古に手応えを感じながら、実は「いままで俳優という仕事をやってきたなかで、いちばんプレッシャーを感じています」という意外な告白も飛び出した。
「役としてやるべきことの量がまず多い。それを連続で、30公演もして地方公演も回るとなると、声帯も心配ですし、体力とか、モチベーションとか、記憶力とかも大丈夫なのかと。でも、これまでのいろいろな経験を思い返しても、これをやるための経験だったんじゃないかと思うくらいです。ついに来てしまったかと。もうだから稽古場では、毎日冷や汗でしたよ」
このプレッシャーをはねのける力となったのが、前回出演したショー形式のオフブロードウェイ・ミュージカル「フォーエヴァー・プラッド」での経験だった。
「あの作品はミュージシャンとしての僕の許容範囲を超える作品だったんです。でもあの作品への出演があったから、「キャッチ・ミー」の音楽にも立ち向かおうと思えるんですよ。あのとき一瞬、僕は飽和しちゃったんです、実は。1950年代とか40年代の音楽って、いまと音楽理論がまるで違うんです。僕の思っている音楽理論が生まれる前のものだから、とにかく、わけわかんなかったです。たとえば人間として生まれて、『これが空だよ』『大地だよ』と言われたものが、『海だよ』って言われるようなものなんですよ! これが1つや2つじゃなくて、全体に影響しちゃうんでパニックになって。そこで川平慈英さんたちキャストのみんなが一緒になって本気でぶつかって。そこで勝ち得たものがあったから、今回闘える。闘う武器を得たと思っています」
自身の歌うナンバーの歌詞を演出家の荻田浩一と一緒に考えたりしているのは、「わからないだろうけど、ブロードウェイ版の翻訳だからしかたない、ってやるのはすごく嫌だし、日本人には日本語でちゃんと伝えたいから」。作詞も手がけるミュージシャンだけに、言葉へのこだわりも人一倍なのだ。好きなシーンやお気に入りのナンバーを聞くと、「うーん」と悩みながら「全部としか言いようがない」という。
「普通だったら、だいたいあると思うんですよ、ここが決めのシーンだとか。でもこれ、本当に全部なんです。ライブでも、演出のいちばんの盛り上がりはこのへんの曲って決めますよ、起承転結の構図を考えて。でもこの作品は全部なんですよ……。気を抜くことなんてまずできない。めまぐるしく、どんどん次のシーン、次の曲ってなっていって、それが全部、先へ先へと連れて行って感動させてくれる。具体的にっていうと難しいんですけど、最後の瞬間、終わった後みんながニコッと笑って『あー楽しかった』って、いいため息をつくんじゃないかと思う。ジェットコースターに乗ったあとみたいに『あー、コワかったし疲れたけど楽しかったよねー』って。『こんなにドキドキワクワクしたことってないよね』って思ってもらえると思います」
「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」は7月13日までシアタークリエで上演中。以後、7月16日に名古屋・愛知県芸術劇場大ホールで、18日~20日まで梅田芸術劇場・シアタードラマシティで上演。詳しい情報は公式ホームページで。
www.tohostage.com/catchme/
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka