コラム:若林ゆり 舞台.com - 第1回

2014年2月6日更新

若林ゆり 舞台.com

第1回:外国製ミュージカルとは思えない敷居の低さと痛快さ! 「フル・モンティ」

舞台も気になる映画ファンに贈るこのコラム、開幕第1回を飾るのは、ご存じイギリス産の人情コメディ映画「フル・モンティ」のブロードウェイ・ミュージカル版。12年前に全米ツアーキャストが来日公演も行っているが、今回は日本人による上演だ。映画でロバート・カーライルが演じた情けなーい中年男ジェリー(映画ではガズ、ブロードウェイのオリジナルキャストはあのパトリック・ウィルソン)を演じるのは、これが初舞台となる山田孝之。初舞台にこんな大舞台のミュージカルを選ぶなんて、しかもすっぽんぽんになるなんて、すんばらしい度胸じゃないか!

演出・翻訳・訳詞を手がけるのは、コメディにこだわる脚本家・演出家・監督の福田雄一(「俺はまだ本気出してないだけ」)。一昨年はアーサー王伝説を題材にしたミュージカル「モンティ・パイソンのスパマロット」を手がけているのだが、このときは日本人にもわかりやすくしよう、笑わせようという意図が働き過ぎて、芸人コントのような舞台になってしまった。果たして今回はどうか。結論から言うと、これがもう、大成功! 日本人キャストによる海外ミュージカルの中でも最も敷居が低く、笑えて泣けて、前のめりで楽しめる作品として太鼓判を押したいと思う。

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このミュージカル版は舞台がイギリスのシェフィールドからアメリカのバッファローへと移し替えられているため、映画版よりしょぼくれ感や哀愁、社会的メッセージは薄い。それ以上に違うと感じるのは音楽だろう。映画では既存の音楽がぴたっとハマってシーンを盛り上げていたが、今回はすべてオリジナル。よって、「ホットスタッフ」のあのシーンは見られないわけである。それは残念だが、この作品の音楽も各場面にフィットし、感情を伝えてとてもいい。

ストーリー自体は、映画とほぼ同じ。悩みを抱えた崖っぷちのダメ男たちが再起を賭け、ひと晩限りのストリップショーをして儲けようと思いつく。そして自分と闘いながら必死でがんばるのだ。だいたいこの手の話はミュージカルに向く。それぞれのエピソードと感情が割と丁寧に描かれていくのだが、全キャラクターを愛おしいと思え、感情移入できるから楽しいったらない。安易なギャグに走らずとも絶え間なく爆笑できて、ポロポロっと泣けるのだ、気持ちよく。ただ、せりふも歌詞もしっくりくるだけに、いっそ夕張あたりの日本の話に翻案する手はなかったのかな、とは思えてしまった。

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それにしても、山田孝之には驚かされた。コメディの間だとかウソブキ演技の面でイケているのはわかっていたが、歌のスキルが高い! 歌手経験あったんだっけと思わず調べてしまったほど、声が実に素敵なのだ。しかしこれは諸刃の剣で、ダメ男にしてはカッコよすぎる。しかも彼、「ウォーターボーイズ」時代くらいにカラダを絞ってきちゃってるんだもの。情けなさを脳内補完しないと、うっとりしちゃいそう。とはいえ、うまい歌を聴ける、きれいな肉体を堪能できるというおいしさはこの舞台の魅力だし、崖っぷち感は息子への愛情を感じさせることできっちり出している。どうして文句が言えよう! そしてムロツヨシのゆるさを生かした笑わせ職人っぷりにも惚れ惚れ! ほかのキャストもチャーミングでいちいち語りたいが、字数が足りないので泣く泣く割愛(女性陣も全員グッジョブ)。

そしてやっぱり、このクライマックスはたまらない。本当にストリップショーをやるのかって? もちろんイエス。どうやるのか、本当に見えちゃうのかは劇場で各自、ご確認を。大きい劇場ながら客席と舞台の一体感がすごくて愉快、痛快。なんたって実際にショーの観客になれるんだから。輝く男たちのアゲアゲ感がアドレナリンとやる気を誘い、憂さが晴れることこの上なしだ!

2月16日まで東京国際フォーラム ホールCにて上演中。詳しい情報は公式ホームページ
http://fullmonty2014.jp/

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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