コラム:編集部コラム やっぱりアニメはヽ(´▽`)ノ日本が一番 - 第6回
2012年12月14日更新
第6回:シリーズ3年ぶり長編「ONE PIECE FILM Z」到来
今月の編集部コラムは特別編。「ONE PIECE FILM Z」について、原作を愛読するライターの村山章氏に寄稿いただきました。原作者自らが再び製作に携わった注目の一作「ONE PIECE FILM Z」。その見どころはどこか? 同じく原作者がかかわって大ヒットした「STRONG WORLD」との違いは? それでは以下、村山氏によるコラムをお楽しみください。
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■「Z」に込められた「ONE PIECE」のスピリット
いまや「国民的アニメ」として、「サザエさん」「ドラえもん」「ドラゴンボール」といったビッグタイトルと並んで挙げられる「ONE PIECE」。2012年に連載15周年を迎えた原作コミックは、累計発行部数2億8000万部という国内最高記録を打ち立て、今年3月には初の展覧会「ONE PIECE展」が開催されるなど、アニメ/コミックの枠を越えた社会現象になっています。
しかし、テレビアニメのほうは週刊マンガ原作の落とし穴である、時間稼ぎのような穴埋め的な回があったり、原作にないオリジナルエピソードが不評を買ったり、06年からは放送時間がゴールデン枠から日曜朝に変更されるなど、番組としての勢いは一時ほどではない、というのが現状でしょう。
そんな中、09年、興行収入48億円のメガヒットを記録した長編劇場版アニメ「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」が登場しました。劇場版は03年から毎年1本のペースで作られていましたが、中でも同作が特大のヒットを放った秘密は、原作者の尾田栄一郎が初めてアニメ版に直接携わり、製作総指揮としてシナリオ作り、キャラ設定に関わったこと。劇場で尾田栄一郎描き下ろしのコミックを収録した冊子「ONE PIECE 零巻」が配布されたことも手伝い、渋谷の公開館では初日に2000人の大行列ができるという、シネコン全盛の昨今では珍しい光景も見られました。
原作者のこだわりを貫いた「STRONG WORLD」は、アニメシリーズに不満を抱えていたコアな原作ファンを呼び戻したわけですが、劇場版のハードルを上げることにもなり、次なる長編を完成させるには3年の月日がかかってしまいました。製作サイドも、アニメに関わるのは一度きりと発言していた尾田栄一郎を口説き落とし、再び万全の体制で作られたのが最新作の「ONE PIECE FILM Z」です。
個人的には、実は「ONE PIECE」アニメの決定版として生まれた「STRONG WORLD」には不満がありました。仲間の絆を謳った熱血ストーリー、劇場版ならではのハイクオリティな作画、空に浮かぶ島で巨大生物が闊歩する冒険心に満ちた舞台設定。「ONE PIECE」好きが求める要素を網羅した“お祭り”として完璧ではあります。しかし過去のエピソードから似た展開、似た設定、似た表現が連想できるなど安心感が先に立ってしまい、絶好調のときの「ONE PIECE」がやってのける“エモーションのリミット越え”を感じられなかったからです。
では「ONE PIECE FILM Z」はどうなのか? 今回の敵役である“Z”には、ファンであるほど戸惑うかも知れません。“Z”は自分自身の信念を貫くために軍を去った元海軍大将で、すべての海賊を滅亡させようとテロ行為を画策する“暴走する正義漢”。尾田栄一郎という人は、どんな悪役にも必ず愛嬌や隙を付け加える、ベタな言い方をするとギャグマンガという大前提を崩さない作家です。ところが“Z”には笑いの要素がほとんどない。「ONE PIECE」史上もっともハードな敵と言えるかも知れません。
とはいえ「オノレの信じることのためにどこまで突き進めるのか?」というテーマこそ、実は「ONE PIECE」という作品がかくも愛される必須要因。楽しいお祭りだった「STRONG WORLD」とは別種の、男と男が拳で語り合う魂のバトルは、間違いなく「ONE PIECE」のスピリットそのものでした。とりわけ“Z”と弟子だった青雉(デザインのモデルは松田優作!)のベタつくことのない師弟愛はあらゆる男子の心を射抜くはずです。
「STRONG WORLD」よりも不器用で暑苦しい本作は、拡大を続けるファン層にとっての試金石になるはず。タイトルに冠するにふさわしい“Z”という男を生み出した「ONE PIECE FILM Z」が、3年前のような大フィーバーを巻き起こせるかどうか、注目せずにいられません。
(村山章)
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