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鬼才キム・ギドク、暴力描写封印の「The NET」に込めた揺るがぬ決意

2017年1月6日 08:00

真摯な語り口で最新作を 語ったキム・ギドク監督「嘆きのピエタ」

真摯な語り口で最新作を
語ったキム・ギドク監督
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[映画.com ニュース] 民主主義の腐敗を浮き彫りにした「殺されたミンジュ」(2014)、東日本大震災と福島第一原発の事故を背景にした「STOP(原題)」(15)と、近年では立て続けに政治的なメッセージが際立つ作品を完成させてきた韓国の鬼才キム・ギドク監督。最新作「The NET 網に囚われた男」(16)も同じく、監督にとって最も直近の社会問題ともいえる朝鮮半島南北分断の悲劇をテーマに掲げている。トレードマークでもあるバイオレンス描写を「あえて排除した」と語るキム監督は、本作で世の中に何を訴えたかったのだろうか。(取材・文・写真/編集部)

映画は、事故で北朝鮮と韓国の国境を越えたために理不尽な運命にさらされる漁師ナム・チョル(リュ・スンボム)の姿を通し、弱者が犠牲となる現代社会の闇をあぶり出した野心作。企画の立ち上がりについて「北朝鮮の核開発問題が要因になった」と明かしたキム監督。「この問題が発端となりアジア全体で軍事力の増強が行われ、世界が深刻な状況に陥っています。日本の方々にとっても無視できない現実を今一度一緒に悩み、そして南北統一問題にもつながるゆゆしき事態の解決を見出せないかと考えました」と作品への思いを吐露した。

メビウス」(13)が韓国で上映制限がかけられるなど、徹底した暴力描写で知られるが、本作ではバイオレンスな演出は鳴りを潜めている。「以前は、人間の欲望や、資本主義社会のなかでの個人が抱える問題を扱うことが多かった」と口火を切り「本作は、十分苦しみに満ちている物語だったため」と暴力描写を控えた理由を説明した。「葛藤を抱える韓国と北朝鮮、その2つの国家のなかでひとりの男が苦痛を受け、非情な運命にさらされていく。状況設定がすでに残酷で恐ろしいもの。細かな描写まで過激にしてしまうと、見終わった観客の心のうちに“怒り”しか残らないのではないかと危惧していたんです」。

タイトルにも使用されてる網というモチーフは、「国家の比喩」だという。「例えば、竿を使った釣りは、ある意味個人と個人の問題に置き換えることができます。逃げようと思えば逃げられるという側面がある。ですが、網は対象を包囲するもの。1度捕獲されたら逃げられない。網が国家、そしてひっかかる魚が個人。個人が国家という巨大な網にひっかかり苦しむことを表現するうえでも、タイトルにふさわしいと思ったんです」。

本作の特徴として、韓国と北朝鮮のどちらに肩入れすることもなく、両国家のおぞましい一面を平等に描き出していることが挙げられる。そのなかでも、それぞれの国を舞台にした取調室の光景は印象的だ。ナムを尋問する両国の取調官たちが、まるで合わせ鏡のような態度をとることについて「どちらの国の人間にしろ、権威主義的で攻撃的、卑怯な側面を見せたかった」と述べ「シナリオ執筆段階から意識していたこと」と告白。また「両者が同じようにナムの背後から話しかけるという演出は、ナムが防御のすべを失い、されるがままになってしまうという悲しい状況を強調させた部分」であることを明かした。

「実は『嘆きのピエタ』(12)でも2台あったカメラのひとつを私が担当しているんです」と話し、「アリラン」(11)から本作に至る全ての監督作品で撮影も兼任するようになっている。製作姿勢に変化があったのだろうか。「私には映画をつくるときの優先順位があります。第1に物語の質、次に製作のための資本、そして俳優、最後に撮影に関わる技術と続きます。撮影監督がいれば素晴らしい映像が撮れることは確かです。ただ私の場合、製作資金が潤沢ではありません。自身の現状に見合った手法を模索する必要がありました」と語る。「『嘆きのピエタ』の撮影時に思い始めたことですが、映像のクオリティを諦めてでも、映画を完成させるという目的を達成するためには、自身で撮影も兼任した方が効果的だと感じたのです」。

万感の思いを込めて完成させた本作に加え、日本では「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016」で上映されたきりだった「STOP(原題)」が3月の公開を予定しているという嬉しい報告も飛び出した。穏やかな表情で丁寧に言葉を紡ぐ姿が印象的だったが、時折見せる真剣な眼差しに、映画というメディアを通じて、世の中へ警鐘を鳴らし続けようとする決意がにじみ出ていた。

(映画.com速報)

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