亡き父マウン・ワナ監督への思い 息子オッカーが語り尽くす
2014年11月3日 23:00
[映画.com ニュース] 10月31日に閉幕した第27回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門で、1972年のミャンマー映画「柔らかいステップ」が上映された。まだビルマという国名だった時代に作られた本作は、伝統の打楽器を奏でる芸術家肌の青年セイン・リンと、美貌の踊り手キン・サンの恋の往く末を描いた音楽映画。純朴な愛を描いた作品としても楽しめるが、ふいに挿し挟まれるショットや俯瞰アングルの鋭い一撃には、映画作家としての署名が刻印されていて興味深い。デジタル復元されたこの作品を皮切りに、今ミャンマー映画が世界的に脚光を浴びつつあることをぜひ記憶に留めておいてほしい。3年前に65歳で逝去したマウン・ワナ監督の息子オッカーが、愛すべき父と映画のことを語った。(取材・構成/赤塚成人)
オッカー:第二次世界大戦前から映画が盛んでした。当時はブリティッシュ・ビルマをはじめとする映画会社があり、おう盛に作品をつくっていました。1962年、政権が変わったのを機に映画が国有化され、撮影したり映画館で上映するには国の許可がいることになりました。また個人で映画を撮っていた監督は、作品を発表するペースが遅くなってしまいました。近年は規制が緩くなったこともあり、若者が新しいスタイルの映画作りに挑戦しています。俗に、「ミャンマー映画のニューウェイブ」といわれています。
オッカー:コメディやアクション、ラブストーリー、ホラー映画などいろいろです。僕はまだ若いので古い時代のことはわかりませんが、1980年代に大ヒットした映画で海外に紹介したいものに、“Thingyan Moe”(「水かけ祭りの雨」の意)というミャンマーを象徴する祭りを題材にした作品があります。
オッカー:マウン・ワナは私の父になりますが、父の父、つまり私の祖父も映画監督でした。なので、映画作りのための機材やスタジオ、役者が揃っていたのです。その意味で父は大変恵まれていました。祖父はイギリス植民地時代に政治家でした。その後、映画監督・作家としても名を残した人で、父も映画と文学の両方で活躍しました。
オッカー:父が最初に撮ったのは、“Katipa phanat see shwe htee hsaung”(「黄金の傘の下、ビロード靴をはいて」の意)という映画で、心を病む患者と精神科医のラブストーリーでした。
オッカー:自分で作曲するくらい音楽に関心をもっていました。映画に流れる「旅をしながら歌を歌う」という曲は、父が作曲したものです。その他の映画にも劇中歌を書いています。ミャンマーでは映画を作ると、必ず主題歌を作ります。この映画では、タイトルと同名の「柔らかいステップ」という主題歌が効果的に使われています。
オッカー:あれは映画に登場するサイン・ワインと呼ばれる伝統楽器のセットに必ずあるデザインです。深い意味は分かりませんがこの楽器のシンボルではないかと思います。
オッカー:ミャンマーでは水害が多く、まれに酷いときには建物が水没することもあります。2〜3週間で水は引きますが、ちょうどロケをしている時にその光景に出合ったのではないでしょうか。
オッカー:父はセルゲイ・エイゼンシュテイン監督(「戦艦ポチョムキン」)が大好きでした。だからモンタージュ理論の影響を受けているのではないかと思います。
オッカー:セイン・リンとキン・サンが人生をどう乗り越えてきたか、その生活ぶりをうまく描いた作品だと思います。映像に音楽がぴったり合うように作られているところも素晴らしい。映画の中で演奏しているのはプロの音楽家たちです。当時は客が奪われてしまうのを恐れて音楽家は映画に関わりたがらなかったはずなのに、父がどう説得して出演してもらったのか興味深く感じました。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。