尾野真千子、真摯に向き合い続けた「真幸くあらば」
2010年1月8日 18:03
[映画.com ニュース] 尾野真千子と新人俳優の久保田将至が主演を務めた「真幸くあらば」が、1月9日に公開される。初メガホンとなる詩人の御徒町凪監督、奥山和由プロデューサーの下、婚約者を殺害した憎むべき相手に強くひかれていく難役を演じきった尾野に話を聞いた。
尾野は「萌の朱雀」で女優デビューし、今回が映画出演16本目。初タッグとなる御徒町監督について、「無理に作ろうとしない監督さんでしたね。私たちの気持ちを大事にしてくれて、1カット撮り終えると『どうだった? お互いに気持ちを作れていた?』と聞いてくれる。それがOKならOK、ダメなら『もう1回やろう』と言って同じ目線に立ってくれました」と語る。尾野にとっては、これまで仕事をしてきて初めての体験だったそうで「自分の気持ちができてもいないのに『OK』のひと言で次に進まれたら気持ち悪いじゃないですか。だから自然といい緊張感でいられたし、すごく好きな監督ですね」と全幅の信頼を寄せた。
同作は、謀反の罪で捕らえられ刑死を間近に控えた有馬皇子が、祈りのように詠んだと伝えられる歌「磐代の 浜松が枝を 引き結び 真幸くあらば また還り見む」から着想を得た純愛映画だ。久保田演じる死刑囚・南木野淳との対話は、厳重な監視つきの面会室でのアクリル板越し。互いに求め合いながら、肌と肌との直接的な接触が絶たれた状況で、ふたりは聖書を利用した「秘密の通信」を通して愛を深めていく。尾野は役作りを一切しなかったといい、「あえて言うならば、裸になるためにダイエットをしたくらい。なぜなら、久保田君が常に(役の)南木野淳になっていたから変な演技はできないと思った」と説明。それだけに、「私の心境の変化……好きとか悔しい、殺してやりたいっていうのは彼の顔を見てから生まれたものです。相手あってこそですね」と振り返った。
昨年10月に行われた東京国際映画祭でお披露目された際、奥山プロデューサーは尾野を「生まれついての女優」と絶賛した。しかし、単独での“濡れ場”シーン撮影時には尾野が猛反発したこともあったそうで「本当に辛いシーンで、1回撮って“やりきった!”と思えた。監督からもOKが出たのに、たまたま来ていた奥山さんから『もう1回やってくれないか?』と言われたんです。2回目なんて、どこで頂点がきて崩れてっていうのが段取りとして頭に残っているから、それを取り払うことができなくて」と述懐。結局、御徒町監督の説得に折れて2テイク目に臨んだが「自分でモニター見ていないから、どっちのテイクを使われたのか分からないんですよ」と屈託なく笑う。
そんな尾野にとって、河瀬直美監督の存在は原点であり、切っても切れない関係と言っても過言ではない。「萌の朱雀」でデビュー後も、カンヌ映画祭グランプリ受賞作「殯の森」に主演。しかし、これまでに“恩師”河瀬監督の存在を忘れたいと思ったこともあったそうで「どの現場に行っても、みんなの私を見る目の中に河瀬さんがいた。それにすごく腹が立って『何で未だに河瀬さんのこと言われなあかんねんの』と憎しみすら感じたこともありました」と複雑だった胸中を吐露。だからこそ、過渡期を経た今なら河瀬監督に感謝できるといい「私にとって、今も大事なのは河瀬さん。生き方、立ち位置、すべて教えてくれて……他人じゃない気がしているんです。だから、好きです」。2人が3度目のタッグを組むとき、尾野はさらなる飛躍を遂げるに違いない。
「真幸くあらば」はティ・ジョイ配給で、1月9日から東京・新宿バルト9ほか全国で順次公開。
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