ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー : 映画評論・批評

2022年11月10日更新

2022年11月11日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー

空位につく者の“覚悟”こそが、新勢力の強き盾となる!!

喪失感がスクリーンを通してあふれ出てくるが、気持ちがどんより沈むほど湿っぽくは感じない。早逝したチャドウィック・ボーズマンへの思いを最大限に示しながらも、その全像は次世代の決意と前進に迫る希望的なものだ。

MCUファンのみならず、エンタメに浴する者すべてが視線を注ぐ続編は、誰も望みなどしなかった主演俳優との死別を設定に重ね、タイトルキャラクター亡き後の動乱と、誰がブラックパンサーを継ぐのかという課題を併置させたドラマが咆哮を放つ。

ワカンダ国を悲しみの深淵に突き落とす、ティ・チャラ王の突然の訃音。世界各国は惜しみながらも、その死によって超鉱石ヴィブラニウムをめぐる暴力の火種が熱を発していた。そんなとき、同鉱石を必要とする海底タロカン帝国と、創造神ククルカンの名で畏怖される指導者ネイモア(テノッチ・ウエルタ)がワカンダに接近する。人類の侵略行為を目の当たりにし、防衛のため攻撃に訴えようとする彼はキルモンガーの再来か―!? 共闘か対立かの選択を強いられたシュリ王女(レティーシャ・ライト)は、兄ティ・チャラと同じような苦境に立たされる。

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歪んだ正義行為へのジレンマや、戦いが引き起こしてしまう二重の悲劇など、本作は前回同様に深刻な宿命性を帯びている。しかし反復要素は多々あれど、空域や海洋へと舞台は拡張され、それにともない作品のアクションやスケールはより大型化して、161分に及ぶ長丁場を一片の淀みなく突っ切っていく。アフロ・フューチャリズムと称され喝采を得たプロダクションデザインは独創性と洗練さをさらに増し、視界を覆うもの全てに新鮮さを感じるだろう。

なによりスーパーヒーロー不在が与える試練を、残された主要人物たちがしっかりと共有し受け止め、映画はブラックパンサー継承への回答を異論なき形で導き出す。空位につく者の“覚悟”こそが、新勢力の強き盾となる。それはフェーズ5への足固めという規定的なものにとどまらず、理詰めではないエモーショナルな高揚をもたらすのだ。また安易にチャドウィックをデジタルヒューマンとして人為的に蘇らせることなく、それでいて全編に彼の存在をシームレスに感じさせる演出に深い敬意を覚える。

不勉強だと叩かれるのを承知で言うが、故人となった俳優にこれほどまでリスペクトを捧げた巨大な商業長編映画を、自分は過去に観たことがない。ありがとうMCU、そしてなによりもチャド。本作を経て、ようやくあなたが遺したものを冷静に受け止めることができそうだ。

尾﨑一男

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