偶然と想像のレビュー・感想・評価
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会話劇
正直、まだわたしにはこの監督の手腕というか
思考の領域というか...を理解できる程ではないのですが
ドライブマイカーのときに感じた、洗練された空気感や雰囲気、
登場人物たちの会話の心地良さみたいなものは割と好きなので
この作品はドライブマイカー以上に普通に愉しめました。
急に実力ある役者さんたちが棒読みちっくになる口調には一体なんの意図が...???となりましたが
その後、宇多丸さんの解説をきき少しは納得...
とはいえ、やっぱり監督の領域にはほど遠い。
まあ良いんですそれで。
単純に作品の心地良さが好きなので^^
特に3作目で他人同士の心が通い合った瞬間の微笑ましさは本当に良くて、
初夏?昼下がり?風が気持ち良さそう、
そんな季節を感じる風景も本当に心地良く、
清々しい気分で映画館を出れる素敵な作品でした。
短編が3本続くという形式で、各々の物語的なつながりはないけれど、何...
短編が3本続くという形式で、各々の物語的なつながりはないけれど、何かを演じ、長尺での回しを多めにしてリアリティを演出しながら、「わからない」の実像に迫っていく。
気持ち悪い映画
毎週のように良質な新作映画が上映されまくりで、嬉しい昨今、今週は珍しく観たい新作が無く、それでも何か観たいと思って探したら、偶然出てきたのが、この映画。昨年の公開時に観に行って、余り引き込まれないのに我慢して3時間を観終えた『ドライブ・マイ・カー』と同じ濱口監督による3つの短編集との事。予告編を観たら、意外と自分の好きな作風のように思えたので、映画館へ足を運んだ。あの映画がアカデミー候補になり、最近うるさ過ぎるくらいにあちこちのメディアで絶賛、大宣伝されている影響もあるようで、本当に映画好きな人達がそこそこ集まってる印象。
第一話『魔法』
タクシーに乗った若い女友達同士の長い会話。まだ特別な関係になってはいないが、奇跡のような出会い話が語られます。この長い言葉の応酬が実に見事なシナリオで、上手いな~と感じました。「下品で汚い言葉を使う事がカッコいい」と信じている、日本の中二病的な女子が良く表現されています。その後の展開も面白く、退屈だった『ドライブ~』とは違って、引き込まれます。しかしながら、この男女関係が見ていて非常に気持ち悪く、受け入れられないものを感じます。
第二話『扉は開けないで』
これもまた脚本力が素晴らしく、映像は良くても脚本がダメ過ぎて評判のワリにはイマイチだな~と感じる事の多い邦画界では、一線を画すモノを持ってると思いました。気持ち悪い大学生と不倫女のカップルがいて、男は単位取得を認められないからって、人が大勢見てる前でわざと大声を張り上げて土下座までする恥晒しなゴミクズ野郎。たかが就職内定がダメになったくらいで教授に恨みを抱き、女にハニートラップを仕掛けさせます。教授が賞を取ったベストセラー本の中に過激なセックス描写があり、これを女が朗読するシーンをやたらと長々と聞かせられるので、観客席の方ではどう反応すればいいのか、困ってしまうような空気感が漂っていました(笑)。性格が悪い監督の観客への嫌がらせでしょうか?人によっては不快に感じたり、気持ち悪く思うお客さんもいると思うので、余り安直に他人にはオススメしにくい映画かなと。物語は騙しに来たつもりの女が自分の弱さを告白したり、そんな彼女を励まして勇気づける教授と、心が繋がり合えるような良い関係になりながらも、最後の余計な後日談ですべて台無しになっています。最後のオチで人を崖から突き落として喜ぶような終わり方になってるのが残念。あの後日談で台無しにしなければ、もっとマシになった気がする。そもそもスマホの大事なデータはその場でやり取りすればいいだけなのに、わざわざ家でPC使うとか、疑問点も多い。それはともかく、ここで最も良かったのが、渋川清彦の演技の素晴らしさ!これには唸らされました。
第三話『もう一度』
一話と二話は気持ち悪かったですが、この三話はそれほどでもなく、ストーリーに少し無理がある気がしましたが、比較的良かったです。この三話だけだったら、他人にオススメ出来るかも。この三話だけメインの登場人物が若くなく、同窓会から帰った中年女性が昔の同級生らしき女性と偶然出会い、今まで経験しなかったほどの深い心情を吐露するような関係性に発展するところが見事なシナリオ。初めの2話とは違い、最後は新たな希望が抱けるような終わり方になっていたのも良かったです。
この監督は少し過大評価され過ぎている気もしますが、この映画を観ると、演出とか映画的手法の面で確かに才能が豊かな人なのだろうなと感じます。しかしながら、本当に人間として大事なもの、映画を観に来た人に与えられる大事なもの、それが決定的に欠けてるような感じがあって、それがどうも受け入れにくい何か嫌なものを感じてしまうんだと個人的に思います。こういう映画があっても面白いとは思いますが、やはり、親しい人に自信をもってオススメしたくなるような、そんな映画が私にとっての良い映画ですね。ちょっと辛口評価になりました。
追記:中盤辺りで、イビキをかき始めたお客がいました。映画館が好きで、ほぼ毎週来ていますが、イビキ客は久しぶりです。他の映画と比べて動きが少なく、会話劇で魅せるのがメインの作風だけに、眠気が生じる人もいるかもしれないなーと思いました。出来るだけ充分に睡眠を取って、映画館にお越しください。
心は風、言葉は花びら
心は風、言葉は花びら
風がどこから吹いてきて、どれくらいの強さなのか?
風向きがいつ変わったのか?
風は無味無臭なので感じることはできても、目に見えることはありません。
ただ、そこに花びらが加わると、その強さや風向きを見ることができます。
この映画はそんな映画でした。
会話劇で次々と役者さんたちのセリフが交わされるのですが、セリフが交される度に彼らの心模様が、あたかもそこあるかのように我々は確かめることができます。
上質でオトナの映画でした。
偶然でなく必然
内容とは関係ないですが、ある視覚障がい者の方が、「人生は偶然でなく必然です」と高らかに語っておられたのを何十年かぶりに思い出していました。なるほど確かに3本とも偶然かも知れない。いや、自分で自発的に引き込んでいるかも知れない。じゃ、何気ない自分の日常はなぜ起こるのだろうか?決して単調でも偶然でもありはしない。そんなこんなを、それこそ想像させてくれる濃密な時間でした。・・・・あの突然に緊張感に包まれる場面が素晴らしいですね。言葉の威力という表現では足りないです。私は2本目の教授の語りに助けられたかな。ありがとうございました。
タイトルとアイデアは秀逸だが…
う〜ん。予告編を観て、それなりに多少の期待は感じつつ、
とはいえ当日、特に過度な期待もせず、観に行った訳だが…
そんなフラットなマインドを超えるほどの内容ではなかった。
3話目は結構よかったけど。
1話目と2話目は、もう一歩で眠るところだった。
特に2話目は途中からイイ線いってたのにアノ展開はないわな。
あんな際どい音声データ、その場で直ぐメール送信させるでしょフツー。
と言うか、スマホ録音したデータを敢えてPCから送信するなど訳わからん。要するに御都合主義やね。
あと他にも現実味の薄れてしまう展開や設定によって、違和感が出てしまい随分と勿体なかった。
女の子が青山〜六本木〜渋谷へと一気に走り抜けたり(距離が長すぎるわ)
仙台の中心地から女性がゆっくり歩いて15分で住宅地に辿り着いたり(近過ぎない?)
思春期の子供がお気に入りのフィギュアを自室でなくリビングに飾っていたり…
些細な事だが、やはり神は細部に宿ると思うのだ。
他にも諸々とあったが、結局こういうのが続いてしまうと、役者がイイ芝居していても「所詮は作り話の絵空事か…」となってしまい、なんとも微妙にシラけた気分になってしまう。色々な箇所に都合の良い設定が現れていた。
まだ『ドライブ・マイ・カー』を観てはいないが、なんだか同じような気分になってしまいそうな予感がする。
ちなみに、女たらし役を小室某氏に似た俳優にしたのは、偶然?想像?
あと、どの作品も笑えたのは、結構以外であった。劇場内もみんな笑ってた。
次回作も出来れば、あのユルい笑いを、もっとやって欲しいが、不必要な御都合主義は、ホント勿体ない。ぜひ排除して欲しい。
ちょっとイラついたけど、それは私がおばさんになったからか。
しかし、年をとるのも悪くないかなと思わせてくれました。
若い頃特有の倫理を無視した自己中のこじらせさん、自分を特別な存在と思うあまり道を踏み外してしまうことがあっても、復元できる。30代までなら可能でしょう。
そして、中年期になると、自分の過去も含めてさらけ出すことができるような「親友」なんて、できるわけない、やっぱり学生時代の友だちが一番、、、なんていう人いますが、大人って大人なりの「友だち」が作れる創れる、それが手練れの大人ってものなのです。、、、ということが確認できたような気がします。そして過去の人への思いが強ければ強いほど、会わないでいることができるのも大人なのです。
全編トロイメライのメロディが印象的。たまに歩くたびにドキドキする(ちょっと怖いのです)青学の下のトンネル、確かに青山と渋谷をつなぐ通路でした。都バス内のロケっていうのも珍しい気がして、こんな会話してるようなたちって普通にいるかもと思わされました。
短編集というわりには3話の一つ一つを若干長く感じてしまったのは、例のゆっくりの平坦なセリフ回しのせいでしょうか。ともあれ3話この順番にはとても必然性がありました。
素晴らしき実験映画
前衛的な撮影スタイルと演技で成立している3話からなるオムニバス。
濱口監督はこんな作品までも撮れたのかと驚く。会話劇が中心なのは従来の濱口スタイルだが、難しく重厚な会話劇なのではなく、とても軽やかでウィットにとんでいるのが新生濱口といったところ。
ロメール やホン・サンスの語り口とロイ・アンダーソン的な演技を組み合わせたとでもいおうか、とにかく文句なしに面白いのである。
3話とも偶然と想像というタイトル通りの素晴らしさ。
これはスゴイ。
登場人物の言葉と言葉の豊かさ
3話のオムニバスです。ワンカットなのかわかりませんが、セリフ量の多さにアドリブもあるのかもと思いました。どちらにしても登場人物の豊富なやり取りがあるからこそ、作品の世界に入り込み、感情移入もしました。
所々吹き出して笑ってしまうようなやりとりの中に、励ましの言葉が散りばめられている。本当に面白かったです。
見ていて,とてもかゆい映画だったけれど,おおむね描かれている内容...
見ていて,とてもかゆい映画だったけれど,おおむね描かれている内容は深みがあって面白かった.プロットも時々驚きがあったり,自分の体験と共鳴する部分もあり,楽しみつつもいくつか思う事がある.3連休の息抜きにはちょうどいい映画で,視聴後に近所のタバコ屋で一服していると何となく幸せな感じがこみあげてきた.
気になったことは,1日目で描かれている不思議な魅力のある女の子と,それに振り回される男性のこと.この監督の他の作品でも,女性の不思議さ,神聖さ,分からなさに振り回される男性という描写がよく出てくる.作中に登場する女性のうちでも,男性と同じような合理的で自分をコントロール可能な主体として描かれている女性はとても分かりやすいんだけれど,その分かりやすい女性と対比する形で,分からない女性を描くことで際立って見える.今回は途中からその不思議な女の子の視点をとっていたのが面白かったというくらいか.彼らは彼らで悩みが深いのだと思う.自分は男性だけれど,女性と話しているときにいつも思うのは,何かしら悩みを抱えているときに知るべき対象が自分自身であるという事だ.対象がどうであるのかという事よりも,自分がどう思っているのかという事について考えている話をよく聞く.一方で自分の周辺の男性を眺めていても,自分のことを首尾一貫した意思決定をするとみなしていて,自然と外側に感心が向かっているようだ.この男性と女性の謎の周辺については,この監督以上に上手く表現できる人物を知らないかもしれない.おそらく他にもいるだろうから,知っている人は教えてほしい.
2日目では,オープニングのチープなやり取りに辟易したものの,その後の教授との対話のシーンが大きくしびれた.言語化することができない事を安易に片づけてしまうことなく,そこにとどまることを肯定するメッセージであると認識したけれど,結局教授はスキャンダルで追われてしまった.本当に肯定しているのかは謎のままではある.3日目では,初めのシーンが再現されたところで思わずうなってしまった.名前を思い出せないという事,思い出すという事が主題だったと思うのだけれど,結局最後に思い出した名前はどんな意味があったんだろう.むしろ名前なんてものが初めから存在していなかった,二人のやり取りは破綻することもなく続いていたんだろうにと思うけれど.
第3話で受け取った宅急便の宛先の名前
ハッピーアワーを観たときからの熱烈な濱口監督ファンです。「偶然と想像」も期待を裏切らないどころか期待以上の面白さで映画の楽しさを満喫できました。ただ、一緒に観た相方が、第3話で河合青葉さんが受け取った宅急便の送り先の名前に「(小林)ミカ」と書いてあったというのです。僕も宅急便の名前は気になったのですが、確認できずそれが画面に映ったのかどうか確認できませんでした。
もし、宅急便の送り先の名前が「ミカ」だったとすると相方が言うように「…あなたは今幸せなの?」と聞かれたときに困惑して、別人だととっさに嘘をついてしまったというお話しになってしまいます。
本当のところはどっちなのかスゴく気になります。もし、お分かりになる方がいらっしゃったらぜひ教えて下さい。
ただ、どちらであったとしてもいろいろな想像が広がるという点で素晴らしい映画だったことにまったく変わりはないと思います。
長いこと余韻に浸れる映画
短編小説を読んだ後にもう一度読んでみようかなと思うのと同じように、もう一度見てみようかなと思える映画でした。
傷ついて…人を傷つけ…面倒臭い女の子、感情の流出を避けるかのように言葉を発する小説家(教授)、過去の出来事に折り合いをつけたいと考えている(中年)女性。
この映画は自分が過去に感じた感覚だったり、あるいは関わった人達を思い出させてくれたりしました。懐かしかったり、切なかったり。それが嫌な感覚だったとしても、それはそれ、悪くはないな。
異彩で賛否分かれる、観た時は酷評次第に印象深く
2021年劇場鑑賞40本目 佳作 54点
上映初日に渋谷Bunkamuraにて行われた舞台挨拶で鑑賞
これは映画ではない、ただの会話劇で役者の棒読みも酷い、当方滅多に眠くならないのにちゃんと寝た。年間ワースト10入り間違いなし。
と、鑑賞数日は思っていた。
鑑賞から2ヶ月ほど経ってのレビューになりますが大筋気持は変わってない。けど色々な声を聞いたり思い返してみて、今作を真っ直ぐみるのではなく斜めくらいから観るとなんだか新鮮である種印象に残る映画体験だったなあとも思えてきた次第。
役者の棒読みはあえてらしい。知らんけど
またあの脚本ありきの会話劇から生まれる笑いは2021年邦画だとまともじゃないのは君も一緒や街の上でとはまた違う面白みがあったのは間違いないです。
映画好きや海外でこの監督のおりなすフィルムが評価されるのもわからなくはない、鬼才だとは思うよ。
けど免疫がないのかやっぱり今サイトの☆3.9はとても頷けない、それだけです。
偶然から始まる想像、あるいは偶然を想像すること
面白かった。非常に良くできた脚本だと感じた。
長いワンカットの会話でずっと見続けられるシーンを撮れているのも凄いし、その先にさらなる展開が待ち受けているのが、見応えがあった。
コントと言われれば確かにそう感じる設定や展開ではあるが、コントというジャンルでは括られない、人間と人間のグシャグシャな感情のぶつかり合いを見ているような感じがした。
きっとこの映画では、このシーンのこのセリフで観客を笑わせようという意図を持たずに、誰もが真正面からぶっ飛んだ登場人物たちを演出し演じていたのだと思うし、だからこそ笑えてしまうような作品になったのだと思う。日常でたまに起きる、ありえないような笑えてしまうことを体験するような感覚である。真面目だから面白い。
ただ笑えてしまうだけではなく、悲喜交々を感じることが出来て、最後は曖昧ではなくちゃんと物語がひとつの結末を迎える構成が秀逸だった。
そして「偶然と想像」というタイトル通りの一貫したテーマ性も感じた。やはり何を主題としているか伝わってくることって凄いことなのだなと再認識した。
各短編に共通して存在する、登場人物がカメラ目線で発言するカットなども効いていた。
ただ、絶対に日常では言わないようなクサイセリフがポンポン出てくるのでむず痒く感じる部分も多々あった。
淡々とした口調が、そのクサイセリフのクサミを取り除いているのか、あるいは増長させているのかは分からない。
監督は気楽に観てくださいと言うけれど、、、
見終わってから、自分なりの解釈をしたり想像したりして、なんだか迷路に迷った感じになってます。
1話目(魔法〜)のラストで、2通りのシーンが良かった。そして最後の最後に、カーン、カーンと工事音が響いて、古川さん役の女子の心を自分で叩いてるように感じました。工事中の渋谷?の街並みをスマホで撮って、この風景もまた変わる、そして私も変わるーみたいな。
2話(扉は開けたままで)教授がミセス大学生の声を誉めた辺りから、彼女の瞳や声に輝きがまし、自信に目覚めた感じがとても良かった◎
バスでのセフレとの再会は最初に突っぱねて、よし!いいぞ!と思ったのに、、、
なんなら教授を探しだして、2人で幸せになってほしいぐらい。
3話(もう一度)仙台にすむ主婦に違和感。息子のフィギアに触らせない(じゃあ客間?に置くなって)
「お帰りなさい」って言ってなかったのに「お客さまに挨拶して」って???
裕福なのに、なんだか寂しそうな感じはありましたが。
いやはや、続きなんかを誰かと語りたくなる映画でした。
シューマンのピアノ曲「子供の情景」も淡々と優しい感じで映画に合ってて良かったです。
インサイダーとアウトサイダーを軸にした基本的な解説は「おまけの夜」...
インサイダーとアウトサイダーを軸にした基本的な解説は「おまけの夜」さんのレビュー動画が整理されていて最高だったので、そちらに預けるとして。
『ドライブ・マイ・カー』に続いて観た本作について、比較しながら所感を書き連ねてみる。
まず『ドライブ・マイ・カー』では劇中劇でありながら、カメラはその場面で重要なモノ(者/物)に焦点を当てていて、今何が重要なのか丁寧に解説してくれる映画だった。特に車の中で岡田と西島が語るシーンでは、淡々としたトーンのわりに、あたかも自身がその場にいるかのように、共感度を引き上げられる感じがして胸が熱くなった。
一方で『偶然と想像』ではその場面に登場する人物が全員映るように引きで撮られていて、どの視点でこの場面を見ればよいのか分からなくなってくる。タクシーでたまたまお客さんの話を聞いてしまったような、隣の席での会話をたまたま耳に挟んでしまったような、歩道橋でたまたま通りかかった時に目にしたような、そんな感覚に陥る。自分が当事者ではないそうした場面に対しては、たいていの場合、現実の断片を想像でつなぎ合わせてしまうものだが、この映画は終始それが求められる。多くを語らない、行間を想像でつないでいくのだ。それがまたこの映画の、現実か想像か分からなくさせる不思議な距離感につながっているのかもしれない。
そして登場人物たちは、本来であれば感情的に話すような内容を淡々と語る。でもきっとこれが人の心のうちの本来の姿であって、人は意外と感情を故意に乗せて話しているだけかもしれない。一見、感情が抜かれているかのように見えるからこそ本心に思えて、本心を淡々と言葉を尽くしてぶつけられることに動揺してしまう。それは言葉を尽くす関係性が一見淡白そうに見えるのに、実はかえってエロティックに感じる感覚に近しいのかもしれない。
そして核心に迫ったとき、共通して登場人物たちはいうのだ。「どうして怒ってるの?」このキーワードをきっかけに、次々と繰り出される感情の吐露は、現実味が一気に削がれ、滑稽にも見える。人は本心を語る時、自己防衛から笑みを浮かべることもあるというが、ある種そんな笑みを浮かべてしまうような滑稽さに、気持ちが浄化されるような感覚になっていく。それが鑑賞後の解放感にもつながっているのかもしれない。
最後の場面でピンクの花が出てくる。この花はなんだっただろうか、花言葉はあるのだろうか、言葉の細部まで意味を詰める監督に、そんな邪推を抱きながらも、その爽やかさに目を細めて、この3話の物語が現実だったのか、想像だったのか、しばし余韻を愉しむこととする。
素晴らしい映画〝体験〟
ドライブ・マイ・カーでは少し退屈な時間を強いられたのだけど、今作は逆噴射も逆噴射で、謳い文句通りの素晴らしい映画〝体験〟だった!
九条の古びた小さな劇場で、その日ラストの興行に席を満席にした、映画好きの方達と、素晴らしい時間を共有できた!繋がれた!と正に実感できたと、忘れられない体験でした!
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