劇場公開日 2017年9月29日

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パーフェクト・レボリューション : インタビュー

2017年9月25日更新
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リリー・フランキー、「どんな形でも参加したかった」
こん身の意欲作で見せた明確な“変化”

映画、ドラマ、雑誌、CM……今やこの人の顔を見ない日はないのではないか。2016年は9本(声優含む)、17年は5本もの映画に出演する超売れっ子、リリー・フランキー。そんなリリーが「どんな形でも参加したい」と並々ならぬ決意で挑んだのが、10年来の盟友・熊篠慶彦氏をモデルにした「パーフェクト・レボリューション」(9月29日公開)だ。リリーは本作で、手足を思うように動かせず車椅子生活を送りながらも、障がい者の性の解放を訴えて活動する主人公クマを熱演。難解なテーマに臆することなく、軽やかに切り込んだこの映画で、リリーが表現したかったこととは? 本人の口からは、赤裸々な思いがあふれ出た。(取材・文/編集部 写真/堀弥生)

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ぐるりのこと。」「そして父になる」「凶悪」など、多数の作品で確かな演技力を発揮し、日本映画界において確固たる地位を築いてきたリリーにとって、本作はこれまでになくパーソナルな部分をはらんだ作品といえるだろう。熊篠氏が理事長を務める特定非営利活動法人ノアールのイメージキャラクターを描き下ろすなど以前からサポートし、今回の映画に関しても企画の早期段階から携わってきた。何より演じるのは自分の親友だ。だが、その目に宿るのはリラックスした感情などではなく、執念にも似た“伝える”ことへの並々ならぬ思い。リリーを突き動かすものとは、一体何なのだろうか。

「映画のセリフでもありますが、熊篠が長年主張している『障がい者だって恋はしたいしセックスもしたい』っていうのは、普通の、人権以下の根本的なものじゃないですか。当たり前のことなのに、健常者の中で当たり前とされてない不思議がある。だから、この映画を通じてみんな気がついてほしいですね。障がい者だって性欲があるんだよ、っていうことを」、リリーは力を込めてそう語る。口調は熱を帯び「健常者が勝手に障がい者を聖人化しているというか、妖精化して見ている。健常者にも美人もいれば足が速いやつもいるっていう差異がある。それと同じで、障がい者にもいろんな人がいるんです。そういった健常者の方の誤解を、変えていかなきゃいけない」と身を乗り出す。

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誤解や偏見、先入観を変える。それはまさに、本作のタイトルでもある「レボリューション(革命)」だろう。そのために、どうすべきか。企画の発案者である熊篠氏と松本准平監督が選んだのは、ドキュメンタリーではなくエンターテインメント路線。クマと心に障がいを抱えた風俗嬢のミツ(清野菜名)のラブストーリーを軸に、シリアスな目線を入れつつもポップさを失わないように努めたという。リリーも「実話に基づいてる部分とファンタジーの部分がありますが、あんまり熊篠の主義主張を伝えることに集中した映画でも困る。熊篠がずっとやってる単純な啓発っていうのを長く伝えていくためには、最低限エンターテインメントじゃないといけない。障がい者をテーマにした映画はどうしても重くなりがちなので、こういう風にエンターテインメントに振っていく映画があってもいいと思いますね」と理解を示す。

とはいえ、リアリティからかけ離れるのは本末転倒だ。俳優として出演する際に「作品をこうしたい、ああしたいって言うことはほとんどない」というリリーだが、こと本作に関しては「色々意見を言いましたね。久々に怒りましたもん」と明かす。「例えば、監督やプロデューサーと、俺と熊篠って、この1個の作品でそれぞれの役割を持ってるけど、意図が違うと思うんです。映画を撮りたい人、映画を売りたい人、俺と熊篠(の目指す先)はそこじゃあんまりない」。

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エンタメを標ぼうしつつも、本作がしっかりと地に足の着いた作品になっているのは、こうしたリリーの“あがき”があったからこそだろう。本作のリリーで印象的なのは、目の演技だ。どこか節目がちな、憂いを帯びた視線。そこにも、俳優としてのリリーの気概が表れていた。「熊篠は雨がすごく苦手で、地震には健常者よりおびえるんです。やっぱり、どこかで“おびえ”を持っていないと生きられない。段差1つに関しても、俺らが気づかないようなおびえが生活の中にいっぱいあるんです。だから、熊篠の普段の生活を見ていても、体が自由に動かないぶんものすごく観察してる。目線で常に警戒したり、気をつけているんですね。そういう意識が、目(の演技)に表れたんだと思います」。

さらに、リリーの発案で食事シーンが追加された。これもまた、熊篠氏と過ごすなかで生まれたシーンだという。「監督に、クマが食事するシーンを撮りましょうと提案しました。熊篠は頭もすごくいいしおしゃべりもうまいから、一緒にいると障がい者であることを忘れがちになるんですが、ご飯を食べるところを見たときに、『大変そうだな、やっぱりこの人は障がいがあるんだ』と思い出してはっとした瞬間があったんです。忘れていくことはいいことだけど、この映画では彼らの困っている部分や苦手なことをちゃんと撮ってほしかった」。真実を伝えるために、一切の妥協を許さぬ姿勢。これが、本作でリリーが見せた新たな“変化”といえるのかもしれない。

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