劇場公開日 2017年10月27日

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「ヒッチコック作品に匹敵する非常に良質のサスペンス」ゲット・アウト アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ヒッチコック作品に匹敵する非常に良質のサスペンス

2018年3月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

知的

字幕版を鑑賞。全く予備知識なしに見たのだが,非常に面白かった。監督はコメディアン出身で,今作が初監督作品だと言う。その情報には非常に驚いた。到底初監督作品とは思えないほど完成度が高く,非常に面白かったためである。ヒッチコック作品に匹敵する傑作だと思った。今年のアカデミー賞にノミネートされていると言う話も当然かと思われた。最近見た中ではこれが最も面白かった。

ジャンルとしてはサスペンスに入るのではないかと思う。これをホラー映画と言う人もいるようだが,確かに空恐ろしい話ではあるものの,ホラーとはジャンルが違うような気がする。黒人差別を下敷きにしているが,黒人差別をやめましょうとか言う単純なものではない。非常に練りに練った話で,展開が早く,無駄がなく,見せ方も秀逸で,ゾッとする怖さがある。IT とはかなり毛色が違う怖さである。

黒人差別は歴史的に根が深いが,人類は最初黒人だったことがすでに判明しており,白人や黄色人種は黒人よりはるかに遅れて出現している。生物学的に白人が優っている点は特になく,オリンピックの陸上の金メダリストや MBA のスター選手を見ても黒人ばかりであり,黒人の方がはるかに優れているという証拠ならいくらでもある。この映画の底流にあるのは,実はこの生物としての黒人の優位性である。

この映画の方法が成功するならば,究極の長寿が手に入れられるのだろうが,ちょっと解せなかったのは,あの方法で処理が終了した場合に,何故元の人物の人格が残るのだろうと言うことである。フラッシュの刺激で我に返る理由も不明だったが,全てを説明してしまっては怖さが減ってしまうので,あれで良かったのかもしれない。

怖さといえば,悪意を仕掛けてくる連中の躊躇の無さと,それに対抗しようとする主人公も,全く躊躇わずに思い切った行動をしているところに,アメリカ人らしさを感じた。悪意のプロセスの恐ろしさと,それに主人公が気がつく過程の緊張感は半端なく,最後までハラハラさせられた。最初の構想では違うエンディングになる予定だったと聞くが,この緊張感の後で最初のエンディングが来たら,しばらく立ち直れないかも知れないと思った。

役者は見たことのない人ばかりであったが,非常に印象に残る役者ばかりであり,しかも人格がいじられているという様子を表情で見せる能力の素晴らしさには度肝を抜かれた。音楽担当も無名の人だが,この映画の世界観をよく表しており,不可欠な音楽であったところと,それでもなお,音楽としての独立性を失わなかったところに感心した。演出は非常に見事で,緊張感が途切れることはなかった。是非お薦めしたい作品であるが,米沢での上映は 3/9 までらしいのでご注意を。もう一回見に行きたい作品である。
(映像5+脚本4+役者5+音楽5+演出5)×4= 96 点。

アラカン